子供の頃教わらなかった大人の世界の民主主義 多数決を機能させる「多様な意見の仕分け方」
こういう民主主義の特徴を、私は、「資本主義的民主主義」と呼んできた。
『ちょっと気になる社会保障』の中のコラムでは、アメリカの政界ロビー活動経費上位20業界のデータを紹介している。トップは製薬業・医療関連産業、2位は保険なのであるが、なぜ、彼らが巨額のロビー費用を政治家に渡すのかを考えることは、大人の世界の民主主義を考えるのによい練習問題になると思う。
『ちょっと気になる医療と介護 増補版』(2018)に、次の文章を書いている。
ここにある「内閣人事局」というのは2014年5月に設置されたもので、これにより官僚の幹部職員人事が内閣、つまり政治家による一元管理で行われることになった。通常、幹部職員とは、審議官、局長、次官を指す。
さて、内閣人事局を設けた影響は、日本の民主主義に対してどのような方向で、どのような大きさで出てくるか。同著には、次のような文章もある。
図3における官僚から政治家に向かう、「説明・説得」の矢印の先に内閣人事局が置かれ、さらに「日本経済はどんな病気にかかっているのか――政府の成長戦略は「やった振り」で終わる?」(2019年10月31日)に書いていたように、「財政と現業に責任を持つ財務省と厚労省が求める政策をブロックするための門番・経産省」が立ちはだかると、民主主義モデルはどう変わるだろうか。
長期的・マクロ的視野で政策を考える官僚が、短期的・ミクロ的な視野で得票率極大化を図ろうとする政治家を、牽制する力が弱まるのは間違いない。その結果、この社会の未来はどうなる? 少なくとも言えるのは、未組織な有権者たちが直感的に嫌がる話をとことん避けるのであるから、選挙にはめっぽう強い政権が生まれることである。
あなたは第何象限から発言されていますか?
みんなも知っているように、世の中には多様な意見が存在する。そしていろんな団体はさまざまな提言を行っており、どれもこれも貴重な意見ではある。だがそうであっても、「あなたは第何象限から発言されていますか?」と問うことにより、一応は、あまた存在する意見を仕分けすることはできる。
社会保障に関して言えば、経済界は、労使折半で課せられる社会保険料の負担をひたすら避けようとして大方は第2象限から発言をしてきた。社会保険を短時間労働者に適用拡大することに反対し続けてきた中小企業団体の意見などはその典型である。
だから私は、社会保障審議会の年金部会が「議論の整理(案)」を検討している時に(2019年12月25日)、次のような発言をすることになる。
また、第2象限にいた経済界は、世論を誘導するためにことさらに現役世代と退職世代の対立を煽り、社会の分断を図るキャンペーンを張ってきた。社会保険は、個人のライフサイクルという時間的な観点で見た場合、若年期の保険料で、自分の高齢期に必須となる支出を賄うなど、個々の家計の消費の平準化(consumption smoothing)を果たしているのだから、経済界や一部の経済学者が行ってきたように現役と退職者を世代として対立させる論には無理があるのだが……。
先日、公的医療保険のカバー範囲の縮減や高額療養費制度の負担上限額の引き上げを提言するつもりだった団体から講演を頼まれ、講演の冒頭に、「図3 理念型としての民主主義モデル」の説明をしたら、非常に困っていた。
みんなも心の中で問うことにしたらどうだろうか――「あなたは第何象限から発言されていますか?」と。もっとも、人も組織も「らしくなさの美学」を時々追求したりもするし、何よりも、広範囲の支持は正義を必要とする。そうしたことを見分けるのも、また楽しからずや、か。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら