ベトナムが「福島化」する恐れはあるか 日本とベトナムの深い関係

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昨年11月、フィリピンに甚大な被害をもたらした大型台風は、ベトナムでも猛威を振るった。ベトナムにはその後も別の台風が直撃し、中部を中心に大雨に伴う洪水や地滑りが発生。死者を含めた8万人以上が被災した。

例年この季節になると、ベトナムには多くの台風がやって来る。そして、これも毎年のように中部各都市は洪水被害に見舞われる。ニントアン省も台風の通り道だ。昨年の様子をグォーさんに聞いてみると、

「今度もまた台風はよけて行ったよ。この村には昔から『岬が台風から守る』という言い伝えがある」

彼に言われて村の海岸に出ると、大きな岬が北に見えた。地元の人はそれを「ムイ・ダー・バック(石の壁岬)」と呼ぶ。

「ベトナムには地震がない。ここはなぜか台風も来ない。俺は知らんが、原発を作っても安全だという科学的調査は、とっくに日本がやっているはずだ」

視線を「石の壁岬」から「神の波」がやって来る沖合に転じてみた。そこは南シナ海。水平線の向こうには、ベトナム、中国、フィリピン、マレーシアなどが領有権を争う南沙諸島がある。ことさら中国は主権の主張を強め、近年、中国海軍がベトナム漁船に発砲するなど、キナ臭い衝突が増えている。

タイアン村から約30キロメートルのカムラン湾には、ベトナム海軍の基地がある。ベトナムは対中国をにらみ、この軍港にアメリカやロシア艦船を受け入れ、昨年は小野寺防衛相が視察するなど、当地において防衛上関係を諸外国と深める。原発の目と鼻の先は、その安全に影響を及ぼしかねない“係争の海”へと次第に傾いている。

ベトナム原発の周辺は、すでにさまざまな国の思惑が交錯している。あたり前だが、日越2国間だけで計画が進んでいるのではない。

次の建設受注を狙って、韓国やフランスなども盛んにアピール合戦を繰り広げる。参入を続けたい日本やロシアを含め、ベトナム政府はそうした各国を天秤にかける。歴史に鍛えられ、外交に関して交渉上手なベトナムだ。その手法は巧みでしたたかである。

唐突に着工延期を言い出した、あの首相発言についても、テト(旧正月)が明けたベトナムのビジネス街ではこんな声も聞こえてきた。 「表向きは安全性と言っているが、国内での主導権争いとか、外国との駆け引きでしょう」。

原発の安全より、結局は利権の取り分が心配の種。立ち退き料こそ唯一の懸案だと叫んでいたタイアン村から戻ってみると、あながちそれもベトナムではありうる考え方なのかと思った。

(撮影:木村聡)

木村 聡 写真家、フォトジャーナリスト

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きむら さとる / Satoru Kimura

1965年、東京都生まれ。新聞社勤務後、1994年からフリーランス。国内外のドキュメンタリー取材を中心に活動。ベトナム、西アフリカ、東欧などの海外、および日本各地の漁師や、調味料職人の仕事場といった「食の現場」の取材も多数。写真展、講演、媒体発表など随時。

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