中国の旅行収支の赤字は2018年で約2400億ドル(約25兆円)もあり、中国からの海外旅行の激減だけでも世界経済に大きな影響がある。大規模な感染が広がれば多くの人命が失われる恐れが大きいだけではなく、世界経済全体が大きな打撃を受けることも避けられない。新型肺炎の世界的な感染拡大を防げるかどうかが、経済の先行きを左右することになるだろう。
中国ではマスクが品切れになり、中国からの観光客が日本のドラッグストアで爆買いして、日本でも品薄となっていると報道されている。1918~20年にかけて世界中で流行したスペイン風邪を題材とした本である”Pale Rider”に最初に出てくる写真には「大流行の際に予防のためにマスクをつけた日本の女子学生1920年」という説明が付いている〔注1〕。
日本で人々が外出するときにマスクをするようになったのは、スペイン風邪が流行した際に予防策として政府が推奨したためだというのは、感染症対策の専門家の間では常識のようだ。
スペイン風邪は第2次大戦を上回る死者を出した
スペイン風邪は普通の風邪ではなく、A型インフルエンザH1N1亜型だったということが分かっている。1876年にコッホが炭疽菌の純粋培養に成功して、感染症が病原性細菌によって起きることが証明された。だが、当時はまだそこからさほど年月も経っておらず、インフルエンザがウイルスによって引き起こされるということは知られていなかった。細菌よりはるかに小さいウイルスの姿が電子顕微鏡で確認されるのは、大流行が去ってからしばらくたった1935年のことだ。
爆発的な感染の拡大を防止するために大規模な集会を制限するといった対策は激しい抵抗にあう。正体不明の病気の拡大がおさまることを祈る集まりが、逆に感染拡大につながってしまったという。
今回は、遅すぎたという批判はあるものの、中国の取った移動の制限などの措置が感染拡大防止に役立つはずだ。だが、中央集権国家だからできたことで民主主義国家では実行は難しいだろう。
大規模感染症は、それ自体が歴史的な大事件であるだけではなく、経済や歴史の流れを作り出してきた大きな要因の一つだった。
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