働かないオジサンの「満たされない」キモチ 人生後半戦は「人生を2回生きる」ことで乗り切る

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変わることには時間を要する。むしろ時間の経過自体が変化を生み出すといってもいいだろう。さなぎの期間を経なければ、蝶にはなれないのである。

私は40代後半から、サラリーマンのかたわら、執筆などに取り組んできた。その中で感じることは、新たな能力を身に付けたり、物事を深めるためには、やはり時間をかけないとどうにもならないということだ。

脱「働かないオジサン」の実例

自分の人生を時間軸でとらえ直して、働かないオジサンから脱出した人は少なくない。たとえば、小さい頃に好きだったことを、中高年になってから再び始めた人だ。

40歳を超えてもなかなか課長職に昇格ができなくて、同期に遅れていたことで意気消沈していた人がいる。彼は昔から取り組んでいたスノーボードを再び初めて、インストラクターになった。そうすると、教えることを通じて人に貢献できる自分を見いだして、元気を取り戻した。彼の言葉でいうと、「人に役立つ自分を知って、自信を持つことができた」という。そのことが会社の仕事にも好影響を与えたのか、課長職にも昇格できたのである。

子供の頃から好きだったモノづくりに本格的に取り組んで、サラリーマンや公務員から提灯職人や耳かき職人として独立した人もいる。

また、人生が80年ならば、50歳からでももう1回勝負できると、メーカーの部長職をやりながら7年かけて美容師の資格を取ったビジネスマンもいる。現在ではいくつかの美容室を立ち上げて、70歳を超えた今も現役の美容師として活躍している。

彼らのように2回生きる人生は、とても豊かであるように私には思える。私も、それを目指している。

人生の後半戦は、やはり重要なのだ。しかし、充実した後半戦のためには、前半戦をきちんと乗り切り、かつ「こころの定年」に正面から向かい合っていなければならない

ここが大変なところであり、また面白いところでもあるのだ。そういう意味では、働かないオジサンは1回しか生きていない人が多いのである。

楠木 新 人事コンサルタント

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くすのき あらた / Arata Kusunoki

1954年神戸市生まれ。1979年京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長等を経験。47歳のときにうつ状態になり休職と復職を繰り返したことを契機に、50歳から勤務と並行して「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年に定年退職した後も精力的に活動を続けている。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務めた。現在、楠木ライフ&キャリア研究所代表。著書に、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『定年後』『定年準備』『転身力』(共に中公新書)など多数。

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