会社員人生には、2つの通過儀礼がある
彼が言う「満たされない」ということが、現在のビジネスパーソンの中心的な課題かもしれない。単なる幸福か不幸かといった軸では、収まりきらないのだろう。
この気持ちが、働かないオジサンたちの心の中にも少なからず宿っている。この連載の第6回で、中高年が感じている「誰の役に立っているのかわからない」「成長している実感が得られない」「このまま時間が過ぎ去っていいものだろうか」という3点を「こころの定年」と名付けたことを述べた。
彼の「満たされない気持ち」は、まさに「こころの定年」状態のひとつの表れなのである。
20歳過ぎから60歳までの会社人生を、一気に走り切ることは難しい。
会社人生は、大きく分けると、入社してから仕事を通じて自立していく時期と、組織での仕事に一定のメドがついてから、自分の今後のあり方を考える時期の2つの段階がある。おのおのに通過儀礼があると考えたほうがいいだろう。
前者の通過儀礼は、組織の中で一緒に働く仲間や顧客に役立つ自分をどう作り上げていくかということだ。一方、後者の通過儀礼は、老いることや死ぬことを意識して、どのような距離感で組織と付き合っていくのかという難題である。
この境に、40歳過ぎから多くの人が感じる「こころの定年」があるのだ。
先ほどのA部長のように、前半の通過儀礼を順調にこなしても、後半の通過儀礼を簡単に乗り越えることはできない。働き方の転換が必要だからだ。
今まで自分が頼ってきた価値とは、違う見方を求められている。もちろん従来の価値にぶらさがったままで暮らすこともできるが、それでは新しいモノが見えてこないし、新たな人にも出会えない。結果として、後半戦の通過儀礼を乗り越えることはできない。働かないオジサンは、ここでつまずいている人が少なくない。
寿命も延びた昨今のことを考えると、本当の勝負は、中年以降に持ち越されていると考えてもいいだろう。
前半のうつ状態、後半のうつ状態
あるIT企業の人事部で、社内のメンタルヘルスの責任者を務めている課長に取材したことがある。その会社は、メンタル面で課題を抱えた社員が少なくないので、彼のような専任者を人事部に配置して、産業医とも連携を取りながら対応していた。
彼は入社して数年間はシステムエンジニア(SE)を経験、その後、人事部で採用を担当してから現職に就いた。現場のSEを経験して、採用の仕事で若手社員を入社時から熟知している彼の話には説得力があった。
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