「ミイラ43体」に隠されたそれぞれの人間ドラマ 大盛況「ミイラ展」はこう見ると面白い

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《グレコ・ローマン時代の子どものミイラ》 エジプト、紀元前38年頃~後59年頃
レーマー・ペリツェウス博物館 ROEMER- UND PELIZAEUS-MUSEUM HILDESHEIM

エジプトの《グレコ・ローマン時代の子どものミイラ》は紀元前38年頃~後59年頃に作られた。5歳くらいの子どもの遺体にリネンの包帯を3層に巻き、いちばん内側の層には防腐用の樹脂がしみこませてある。顔には金箔が押された跡がある。理由は不明だが、この時期の特徴だという。

「ローマ人が支配階級だったこの時代は、昔から続いてきたエジプトの神話、宗教の力が衰え、価値観がローマ的になっていきました。エジプト社会特有のミイラの考え方、ミイラ作りは衰退していきます。外側はきれいだけど、内側の遺体は軽視され、腐敗しているものもあるんです」

確かにこの子どものミイラも外側は整っているが、内部をCTで調べると、右腕の骨は本人のものではなく、なぜか大人の骨が入れられていた。遺体に対する価値観の変化が感じられると坂上さんは言う。

昔のミイラ研究では、解剖して内部を観察していた。しかし、いちど破壊してしまうと後世に伝えることができない。

「壊さずにCTで見られるようになったのは、すごい進歩なんですよ。将来はさらにCTの精度が上がって、肉眼と変わらないくらい細部まで見られるかもしれない。そうすれば、さらに多くの情報が得られます」

今後、子どもの右腕の謎が明らかになるかもしれないし、金箔の産地を分析することで顔に押した理由がわかるかもしれない。「だから、ミイラをきちんと保存して後世に伝えることが重要なんです」。

ミイラはキワモノ扱い…?

坂上さんがミイラ好きになったのは小学生のときだった。国立科学博物館で今回も展示されているミイラを見て衝撃を受けた。とくに驚いたのが、人間の頭部が縮んだ干し首。あまりに小さいので人形だと思っていたら、ボランティアガイドから本物だと教えられた。そこから興味を持ち、人体から情報を引き出す面白さにひかれて大学で自然人類学を専攻した。

「自然人類学は骨や化石から人類の進化やルーツを探る学問です。ミイラはキワモノ扱いなんですよ。だから私も普段は骨の研究をして、スキを見てミイラの研究をしています」

そもそも日本は高温多湿で虫が多く、ミイラの保存には向いていない。研究には多くのサンプルが必要だが、数が集まらないし、遺体を汚れと感じる人もいて興味を持つ研究者も少ない。

「ミイラを研究したいと言っても理解されないのが現実です。こんなに面白いのに、熱く語り合える仲間がいないのが寂しいですね」

海外でもマイナーな分野であることに変わりはないが、アメリカ、ドイツ、イギリスでは研究が進んでいるという。

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