米軍での性的暴行に声を上げる「男性」被害者 その数はなんと1万人に上る
ここに、そのような被害を受けた男性3名の物語を紹介する。アメリカ退役軍人省はそれぞれの事例について確認し、彼らが軍に関連した性的暴行の被害者であることを公式に認めた。本紙は各人が所属していた組織にコメントを求めたが、個別の事例については発言を差し控えるとの回答だった。
誰にも話せなかった
ポール・ロイド 30歳
陸軍州兵に入隊、2007年に被害を受ける
ポール・ロイドはソルトレークシティーの自宅近くのスーパーマーケットで、電球を買おうとカートを押していた。その近くの棚にさまざまな香り付きのキャンドルが置いてあり、ロイドは匂いを嗅ごうと立ち止まった。すると突然、彼は顔を手で覆い、泣きながら床に崩れ落ちた。
キャンドルの1つが、2007年に陸軍の基本訓練に参加していたとき、シャワーで使っていたシャンプーとちょうど同じ香りだったのだ。そこで彼は別の新兵に殴られ、レイプされた。
「ちょっとしたことで、あの1メートル四方くらいの狭いシャワールームに引き戻される」と、ロイドは言う。「地獄だよ。そこから逃げることができないんだから」。
ロイドは17歳のときに陸軍州兵に入隊した。暴行を受けたのは、ほかの全員が寝静まったあと、シャワールームでのことだったという。誰にも話さなかった。翌日、内出血と直腸の損傷で入院することになり、何が起きたのかと医師が尋ねても、彼は肩をすくめただけだった。ロイドはモルモン教徒として育ってきた。
「何も言えない気がした。言ったら、まったくの落伍者みたいに見えるだろうと思った。家族にとっても、小隊にとっても、自分自身にとっても」
ロイドは射撃技術と体力でトップの成績を上げており、軍隊でキャリアを重ねていきたいと思っていた。だが、背信したという思いと、レイプされたことへの嫌悪感が、次第に彼をむしばんでいった。
クリスマス休暇で家に帰ったとき、軍隊には戻らないと決めた。1カ月後に見つかるまで、姉の家に隠れていた。彼は新兵訓練に戻されたが、やがて不品行のためとして除隊させられた。その後、除隊のステータスは名誉除隊に格上げされた。