スウェーデンのマイナス金利解除が持つ意味 2020年に向けてECBや日本銀行に大きな示唆

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もっとも、通貨高になろうとなるまいとリクスバンクの今回の決断は重要な示唆を与えているように思う。

どのようなお題目を並べたてようと、マイナス金利は金融部門への課税である。課税分はラグを伴いながらいつかは提供するサービス価格に転嫁される。金融機関が営利企業である限り、そうならない理由はない。事実、マイナス金利の先進地域である欧州諸国ではすでに個人預金金利をマイナスにする動きは出始めている。遅れて、日本でも手数料の形で類似の動きが起きている。今回のリクスバンクの声明文やレポートなどからは、そうした動きが広がる前に対処したかったという思いもうかがえる。

利用者負担か銀行の衰退か

まとめると、マイナス金利を続ける限り、①コスト移転を広く、薄く進めていくか、②銀行部門がコストを飲んで衰退していくかしかない。①も②も避けたい場合、今回のリクスバンクのように踏み込んで決断するしかない。どうしてもマイナス金利を継続しなければならない国があるとすれば、「マイナス金利と通貨安」、「通貨安と輸出増」という2つの事実によほどの因果関係が認められ、それが実体経済の生殺与奪を握るような経済構造を抱えているケースだろう。

そうではないかぎり、マイナス金利を継続することの意味が問われる局面に入ってきているのは間違いない。何かにつけて通貨高にクレームを入れる南欧の筆頭格であるイタリアのビスコ伊中銀総裁ですら、「マイナス金利はほとんど役に立たず、金融システムに有害な副作用を及ぼす恐れがある」とまで断じているのは、もはやマイナス金利のメリットよりもデメリットの方が大きくなり始めていることの証左ではないか。

「マイナス金利を解除してしまうと緩和策がなくなるではないか」という主張ではなく、「マイナス金利を解除すること自体が長い目で見れば緩和効果を高める」という発想、すなわち現行金利を、副作用が効果を上回る”リバーサルレート”だと捉える論陣がマイナス金利発祥地域の欧州でどれほど支持を得るのかどうか。今回のリクスバンクの決定後の議論を注視したい。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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