スウェーデンのマイナス金利解除が持つ意味 2020年に向けてECBや日本銀行に大きな示唆

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もっとも、声明文や金融政策レポートでは、利上げが引き締めの始まりと受け止められないように相当な神経を使っている様子もうかがえた。今回はヤンソン副総裁とブレマン副総裁が利上げの先送りを主張しており、リクスバンク内でも難しい判断だったことがわかる。例えば声明文を締めくくっていた一文「当面、ゼロ金利で維持される」は引き締めバイアスを減じたい思いの表れだろう。

金融政策レポートによれば、レポレートは2021年末までゼロ%で横ばいとした後、2022年末にはプラス0.1%へ引き上げられる見通しが示されている。つまり、「今後2年は現状維持」が足元でのメインシナリオとなる。
金融政策レポートの構成を見ても、「レポレートはゼロ%に引き上げられる」と題したパラグラフの後に「ゼロ%のレポレートは継続的なサポートを提供する」と題したパラグラフを持ってきており、今後も緩和的であるとの強調に余念がない。

長期的に見ればレポ金利はゼロ%以上であることが合理的だと述べながらも、「しかし、スウェーデンの経済・物価情勢にまつわる不透明感に照らせば、次の利上げがいつだということを述べるのは難しい。予測期間にわたってレポ金利は変わらない見通しだ」と説明している。

ちなみに、この説明の直後には「予測は不透明感が徐々に減退し、経済見通しが安定してくることを想定している」とある。つまり、不安定化してくればすぐにでもマイナス圏に戻ることを示唆しており、「経済が予想比下振れて動いた場合、利下げや他の手段を使って金融政策を拡張的なものに誘導する」と念押しされている。

会見に使用されたスライド資料には「低金利と共にある世界では、レポ金利が定期的にマイナスになる必要があるかもしれない」とのフレーズもあった。利上げと利下げ、双方の正当性について両論併記に務めつつ、「いつでもマイナスに戻ることはありうる」という下方向へのメッセージ性はやや強めであると、感じられた。

マイナス金利解除でも通貨高にならなかった

マイナス金利政策が実体経済を押し上げる効果を持ったとすれば、その代表的なものは通貨安とそれに伴う輸出増加であろう。裏を返せば、マイナス金利解除を決断する際、最大の障害となるのは通貨高と輸出減少であるはずだ。そもそもスウェーデンやスイスなど非ユーロ圏の欧州諸国が極端な低金利政策を採用してきた背景には、欧州債務危機を受けた激しいユーロ安のあおりを食らって自国通貨が騰勢を強めてしまうという事情があった。

しかし、もはやユーロ圏は低調だが危機ではない。為替市場の不均衡をもたらすほどの内外格差がスウェーデンとユーロ圏の間にあるわけではない。リクスバンクには「今ならたいして通貨高にはならない」との読みもあったと推測する。実際、今回の決定直後、スウェーデンクローナは一時的に対ユーロで上昇したものの、すぐにその上昇分を消して、ほぼ横ばいで引けている。

為替市場の反応は所与の条件次第であり、今回の体験がそのまま使えるわけではない。しかし、「マイナス金利を解除しても通貨高にならなかった」という事実はECBや日銀にとって頼もしい話かもしれない。

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