「信念のない言葉」は周囲の人に必ずバレている あなたの言葉で人が動かないのはワケがある

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僕も、日本生命の企画部で働いていたときに、上司から、「言った言葉には最後まで責任を持て」と教えられてきました。また、「書類に少しくらい間違いがあっても、いちいち訂正するな」と叱られたこともあります。

僕がその理由を尋ねると、上司は次のように答えました。

「言葉というものは、そう簡単に取り消せるほど、軽いものではない。だから、すぐに訂正すれば、軽く見られてしまう。今出したばかりの文書をすぐに直せば、今後、企画部が出す文書に対して、『また訂正があるのではないか』とみんなが疑うようになる。

もちろん、根本が間違っていたのなら、すぐに訂正しなければいけない。けれど、大勢に影響のない小さなミスなら、直してはいけない。一度出した以上は、『これが正しい』と、突っぱねろ。そのかわり、同じ間違いを2度したらクビにするからな(笑)」

ころころと意見が変わるリーダーは決して部下から信用されません。口に出す前に、集中して深く考える。自分の言葉によって引き起こされる事態を想定して、その準備や覚悟ができているかを自分に問う。一度口にしたことには徹底して責任を持つ。そして、何を言われても意見を変えない。

リーダーが道理に合わないことを一言でも口にすれば、部下の心はバラバラになり、組織を支えることができなくなるのです。

「信念や誠実さがあるか、ないか」は不思議と伝わる

リーダーがよく考えずに、「思いつき」で口に出したことは、部下に必ず見抜かれてしまいます

『貞観政要』で、太宗(唐の第2代皇帝)の臣下である魏徴【ぎちょう】は、太宗に「君主が命令をしても下が行動を起こさないとしたら、それは、君主の命令の言葉に信念や誠実さがないからだ」と述べています。

「いっても行われないのは、言葉に信がないからであります。命令をしても従わないのは、命令に誠がないからであります。信のない言葉、誠のない命令は、上の者は徳を破り、下の者は身を危【あやう】くするものであります」
(巻第五 論誠信第十七 第四章)

信とは、信念のこと。誠とは、誠実さのことです。

上司の命令を部下が素直に聞かないとしたら、それは部下が悪いのではなく、上司の言葉に、信念と誠実さが足りないからかもしれません。

リーダーが、思いつきのアイデアを押し付けるのは、「上司であるオレのほうがエライ」「部下は上司のいうことを聞くのが当たり前だ」というおごった考えが根底にあるからです。

上司はオールマイティーではありません。極論すれば、チームをまとめる人(機能)が必要なので、上司と‟仮決【かりぎ】め“されているだけです。その上司が思いつきで、信や誠のない指示を乱発していたら、部下がいうことを聞くはずがありません。

上司が本心から「これをやりたい」と思い、自分の信念から発した指示であれば、部下には必ず伝わります。部下は上司の信念に応えようとするでしょう。

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