会社の「定年後の生き方研修」が役に立たない訳 60歳以降の再雇用もこれからはラクじゃない

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当時のセミナーでは「24時間時計」を埋めるワークもありました。現役時代の24時間時計は、起床、身支度、通勤、仕事、残業、帰宅、風呂、就寝……など、あっという間に埋まりますが、定年後はそうはいきません。

どうやって時間を埋めていったらいいのか、セミナー参加者たちは途方に暮れていました。起床、体操、朝食……で手が止まり、「新聞を読む」で午前中の空白を埋める人が多数。昼食後は、散歩、図書館、夕食、風呂、テレビ……。そこで講師が、「趣味を持ちましょう」「ボランティアをしましょう」「アルバイト程度に仕事をしましょう」などとアドバイスをしていました。今から思うと、ずいぶんとのんびりした研修でした。

「アルバイト程度の仕事」を推奨していたのも、当時の特徴です。なぜなら、昭和28(1953)年4月1日までに生まれた会社員の人は、60歳から公的年金(特別支給の老齢厚生年金)が受給できるからで、定年後はすぐに年金生活が始まったのです。

一般的な会社員の老齢厚生年金は月10万円程度といわれていますから、退職金をもらい、特別支給の老齢厚生年金をもらい、アルバイトで少し働く。そして65歳から老齢基礎年金も始まり、晴れて満額の年金生活というのが、想定される「定年後の暮らし」だったのです。

下手に仕事を頑張りすぎると、在職老齢年金制度に引っかかり、せっかくの年金が減らされてしまいます。60代前半の基準金額は28万円ほど。仮に老齢厚生年金が月10万円とすると、30万円の給与を受け取ると6万円もの年金が減らされます。これでは気になるのも当然です。実際に働いた分について老齢厚生年金は後で増額されるのですが、それでも足元での損得が気になるので、「できるだけ損をしない働き方が知りたい」と考える人が大半でした。

また、60歳で会社員を辞めると、「年下の専業主婦の妻」は第3号被保険者でいられなくなり、国民年金保険料を支払うことになります。これに対して、「妻はすでに老齢年金の受給資格を満たしてるんだから、もう国民年金保険料は支払わなくてもいいんじゃないか」などと話す人もいました。もう気持ちは「ご隠居さん」でした。

参加者の年齢が下がり、人事の口調はきつくなった

しかし、定年後に悠々自適の隠居生活が送れるかどうかは、人それぞれです。住宅ローンが70歳まで残る人もいれば、これから教育費がかかる子どもたちを抱える人もいます。定年までの働き方によって、人それぞれ年金額も異なります。だからこそ、会社のライフプランセミナーの内容を鵜呑みにしてはいけないのです。

最近のライフプランセミナーは様変わりしています。受講する会社員の年齢がずいぶん下がりました。50歳前半、あるいは40歳代を対象としていることも少なくありません。人事担当は口調がきつくなりました。「今後、役職定年になった場合は給料が下がる。65歳まで再雇用もできるが、給料は一段と下がる。かつてのような条件のよい出向やあっせんもありえない。条件に不満がある人は、身の振り方を自分で考えるように」……。

65歳まで再雇用で働くことができても、生涯年収は60歳で定年だった頃とあまり変わらない、という会社もあるようです。会社にいてもいいけど、給料はかなり下がり、役職はなくなり、きつい仕事が続くのであれば、ただただ「追加」の5年をすごすのはつらいだろうなと思います。

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