会社の「定年後の生き方研修」が役に立たない訳 60歳以降の再雇用もこれからはラクじゃない

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筆者はライフプランセミナーで講師をするとき、老後のキャッシュフローの作り方を伝えています。

まずは、これからの支出です。日々の生活費にいくらかかっているか、わからない人も多いので、セミナー前の課題として把握してもらうことも多いです。現役時代の家計と、定年後の家計は違います。とくに会社員として負担してきた社会保険料がなくなりますから、これは大きいです。一方で、あまり変わらないのが食費や光熱費。拡大傾向になるのが、交際費・交通費・医療費です。そうした話をしながら、定年後の生活費をイメージしてもらいます。

その次にイベント費を書き出してもらいます。リフォームや家族旅行の予定、子どもの結婚資金や孫へのお小遣いなど、定年後を楽しくイメージしながら具体的な費用を見積もります。しかし、親の介護や自分の介護のためにかかる費用は平均500万円と伝えると、「旅行はやめようかな」といった声も聞こえてきます。実際、毎月の支出の25年ないし30年分を計算したうえでイベント費も加えると、かなりの金額になります。セミナー会場が、ため息に包まれる瞬間です。

続いて、退職金や企業年金がある場合は、その金額をキャッシュフロー表に埋め込みます。65歳から支給開始される老齢年金額はねんきん定期便の数字を使います。筆者のセミナーでは、在職老齢年金や、年下の配偶者に支給される加給年金、受給開始年齢の繰り上げ・繰り下げによる受給額の増減など、年金の知識も伝えています。

例えば、ねんきん定期便に記載されている老齢年金は60歳までの就労を前提としているので、定年延長などで60歳以降も働けば、その分老齢厚生年金の受給額を増やすことができます。

「自分事」として考え直し、「個別相談」で深掘りする

それらの情報は平均データやサンプルなどを使って説明するので、セミナー参加者1人ひとりに当てはまるのかというと、まったくそうではありません。セミナーは6時間にもわたることがありますが、終了後、個別相談を申し込む人もいます。「自分事」として、これからの人生を改めて考えたいというのです。老後のキャッシュフロー表を作成して、個別相談に持参する人もいます。

そうして個別にお話をうかがうと、家計の収支はいろいろ、大切にしている価値観もさまざまで、生活設計に正解はないなと改めて思います。早期退職をして新たな仕事にチャレンジしたり、遠くに移住をしたり、資格取得の勉強を始めたり、定年後は人それぞれだと実感します。

「会社という枠組みは窮屈で、『みんな』と一緒にライフプランセミナーを受講しても、これからについて何の希望も選択肢もないと思いました。でも、セミナーを自分なりに考える材料にして、それから個別相談を受けたら考え方が180度変わりました」と話す人もいました。

皆さんも、会社のセミナーを契機に自分独自のライフプランを立ててみてはいかがでしょうか。サラリーマンを卒業するのであれば、「みんな」と横並びの価値観もそろそろ卒業の時期なのです。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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