「新年の目標」が大体達成されない科学的根拠 科学が「意志の力」の存在を否定するわけ
最近では、この意志力が心理学の世界で頻繁に取り上げられているが、その研究はかなり強引に進められている。従来の意志力論は、あくまでいち個人にフォーカスした「心理学」という視点からしか考察されておらず、朝目覚めるとスマートフォンに夢中にならざるをえない現代では通用しない机上論と言わざるを得ない。
例えば、意志力が働かない「典型例」とされる依存症の専門家アーノルド・M・ウォシュトン博士は、「依存症患者には意志力が必要だと考える人が多いが、それは真実にはほど遠い」と述べている。
人は「何にでも慣れる生き物」
そもそも、その人の思考や行動の土台となる世界観や信念、価値観は、その人の内側から湧いてくるものではなく、「外からやってきた」ものだ。
1950年代にアメリカ南部で育った白人であれば、その世界観はその視点から形作られたものだろう。中世ヨーロッパで育った人であれ、共産主義の北朝鮮に生まれた人であれ、もしくはデジタルネイティブとして2005年に生まれた人であれ同じことが言える。
つまり、人の内的環境は、「暮らしている文化的背景」によって形成されるのだ。この背景には、人間の高い順応性がある。
オーストリアに生まれたユダヤ人精神科医ヴィクトール・フランクルが、ナチスの強制収容所での経験を振り返って、「人はどんなことにも慣れてしまう。どうしてかはわからないが」という言葉を残している。彼が振り返ったのは、1台の小さなベッドに10人が一緒に、しかし快適に寝ていたという経験だ。
最近の心理学の調査でも、テレビで下品な内容、暴力、セックスに頻繁に触れていると、多くの人はそうしたものに耐性ができることが判明している。すぐに感覚が鈍り、「慣れて」しまうのだ。
別の環境への移行がどれほど困難であろうと、またフランクルのようにその環境がどれだけひどいものであっても、人には適応する能力があり、実際に適応する。そうやって、その人の意志とは関係なく、その人自身が作られていく。
また、環境は遺伝子さえも変えてしまう。社会心理学者のジェフリー・リーバー博士によると、「物理的な世界の中、物理的な体を持ち、特定の文化的・地理的な場所に存在する家で、特定の両親の元、私たちはある1つの時代に暮らしている。こうした物事によって私たちの選択肢は狭められている」と述べている。
例えば山岳地帯に住む人間を見てみよう。ペルーの山岳地は空気が薄く、そこで暮らす人は世界のほとんどの地域の人たちと比べて背が低い。これは、空気が特定の条件を作り出し、それに人が順応した結果だ。
ノミの実験では、これがより顕著に観察されている。あるビンに複数のノミが入っている。フタがされていなければ、ノミはいとも簡単にビンの口を飛び越えることができる。しかし、フタをすると環境のルールが変わる。高く飛ぶとフタに体がぶつかり、これはまったく気分のいいものではない。その結果、ノミは新しいルールに適応し、あまり高く飛びすぎないようになる。
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