「声を上げる女性が増えている」小さくない影響 フェミニズムの1年を振り返る

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日本で#Me Too運動に先立ち、2017年5月に自分が受けた性的暴行について記者会見を開き、その後『ブラックボックス』という著書にまとめた伊藤詩織氏が、裁判で勝訴したのは今年12月18日である。

そして今年は、世界でくり返し起こる性暴力に対する抵抗のアイコンになり得た《平和の少女像》が、大勢の人に鑑賞される機会を長期間奪われた年でもある。ジェンダーをテーマにしたはずのあいちトリエンナーレ2019内の「表現の不自由展・その後」の展示中止をめぐる事件である。一連の出来事はくり返し報道され、問題を検証する『あいちトリエンナーレ「展示中止」事件』が、11月に刊行された。

「差別に無頓着」な社会に生きている

改めて日本のジェンダーギャップ指数が、世界で121位という現状を考えよう。権力を持つ人は、持たない人に対する想像力が鈍りがちである。性暴力を受け続ける人が抵抗をあきらめるのは、体力面でも立場の点でも、力の差が歴然としているからだが、そういう現場を知らない人は、抵抗すべきだと簡単に考えるかもしれない。

仕事に集中できる人は、他の人が家事や育児・介護を引き受けて自分を犠牲にしているおかげかもしれない。男性に女性より出世するチャンスが多いのは、能力が高いから以前に男性だからかもしれない。そういう、「差別に無頓着」な社会に私たちは生きている。

あまりにも当たり前になりすぎて、女性自身も現状の差別が見えなくなっていた。そんな女性たちが目覚め、仲間を得て声を上げ始めている。覚醒した女性たちがまた、他の人たちの目も開かせる。問題が山積している社会で、ムーブメントは来年も続くだろう。

一方、今年はジェンダーの問題で、男性たちも声を上げた意味でも注目の年である。アシックスで育児休暇を取って配置転換や子会社への出向を命じられた男性、家族の事情で転勤命令に応じなかったからと懲戒解雇されたNECソリューションイノベータの男性が、裁判で戦い始めている。

男性自身が暮らしの当事者として、家庭責任を負おうとするケースが増えていることは、女性の声が政治に反映されにくい社会での一筋の光である。家庭の中で引き受ける役割を増やすこと自体はささやかな試みかもしれないが、そのことが男性の意識を変え、社会を見直すきっかけをつくる。職場や政治、司法の世界で地位を勝ち取っていくことも大事だが、家庭内の変化も確かに社会を変える試みなのである。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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