アンテキヌスの男たちが迎える壮絶すぎる最期 自分の死と引き換えに「未来」という種を残す

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「メスと次々に」と言えば、軽薄で浮ついたプレイボーイを想像して、うらやましいと思う男性諸兄もいるかもしれないが、その実態はそんなに甘いものではない。アンテキヌスの性生活は壮絶なのだ。

アンテキヌスのオスは、あまりに交尾ばかりを続けているため、体内の男性ホルモンの濃度が高くなりすぎて、ストレスホルモンもまた急激に増加する。そのため、体内の組織はダメージを受け、生存に必要な免疫系も崩壊してしまうという。

毛が抜け落ちて目が見えなくなることも

それが原因で、毛が抜け落ちて、目が見えなくなることさえあると言うが、自分の体をいたわることはなく、オスは交尾を繰り返す。もう、彼らの体はボロボロだ。それでも、彼らは交尾をやめることはない。命ある限り、彼らは交尾を繰り返すのだ。

やがて、2週間という繁殖期間が終わる頃、オスのアンテキヌスたちは精根尽き果てていく。そして、次々に命を落とし、短い生涯を終えるのだ。

何という壮絶な死だろう。何という壮絶な生涯だろう。

一方のメスは違う。出産しなければならないメスは、交尾を繰り返したとしても、子どもの数が増えるわけではない。そのため、命を賭(と)してまで、不必要に交尾を繰り返すことはない。メスには出産をして、子育てをするという大切な仕事が残されているのだ。

生物の進化を顧(かえり)みれば、オスという性は、メスたちの繁殖をより効率的に行うために生まれたと言われている。

「男」というのは、生まれながらにして悲しい生き物なのだ。

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しかし、アンテキヌスの男たちは、その運命を受け入れ、全うして息絶えていく。何という男たちなのだろう。

性に溺れた生き物とさげすむこともできるだろう。交尾をしすぎる動物とバカにして紹介されることもある。

しかし、天地創造の神さまだけは知っている。生物学的には、彼らこそが、男の中の男なのだ。

自分の死と引き換えに、「未来」という種を残すアンテキヌス。

「何のために生きているのか」と思い悩んでいる私たち人間に、アンテキヌスは「次の世代のために生きる」という生きることのシンプルな意味を教えてくれている、そんな気がしてならない。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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