中国が描く日米欧を超える「自動車強国」の本質 日本の産業構造が変化していく可能性も

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2030年頃にはモビリティー(人々の移動)が大きく変わる可能性があり、自動車産業は大規模な変革期を迎える。クルマの消費は「MaaS」(Mobility as a Service の略称)へ進化し、「CASE」(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)は自動車メーカーの競争力を左右する。

中国政府の強力な政策の後押しによって、AI技術とEV革命を融合する次世代自動車産業の競争力は確実に向上していくだろう。今後中国企業は進化し、グローバル電池メーカー、ITプラットフォーマー、モビリティーサービス企業、メガEVメーカーが順次登場すると推測される。以上のことは中国が描く2030年の中国自動車市場のアウトライン、自動車強国へのメインシナリオである。

2030年の習近平は77歳、中国トップとして円熟期にあり、「自動車強国」「製造業強国」の実現に続き、アメリカと並ぶ「近代化強国」に向け邁進すると思われる。

そうなれば、中国は「世界のEV生産工場」としてスマートカーやスマートシティ関連サービスの海外輸出を一気に拡大するであろう。中国のEV革命は日本自動車メーカーの牙城である東南アジア市場をはじめ日本国内市場にも波及する。もしかすると日本自動車産業の優位性を根底から崩すかもしれない。

日中ビジネス「黄金の10年」へ

今後日本の製造業者はものづくりのメーカーからサービスを提供する事業者となり、自動車の「一本足打法」で成長を維持してきた日本の産業構造に変化がもたらされる可能性がある。

『2030 中国自動車強国への戦略 世界を席巻するメガEVメーカーの誕生』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

EV革命を起点とする中国の自動車強国戦略には、競争軸を日本企業に有利な分野からずらして新たな競争に持ち込むことで優位を勝ち取ろうという意図がある。

日系企業としてはいかに中国のEV革命の実態を正確に把握しつつ中国戦略を練るかが、各社の難題となっている。

世界経済の大きなリスクである米中対立の解消が見えにくくなっているものの、日中関係は引き続きよい方向へ向かっており、日中ビジネス「黄金の10年」の到来を予感している。

今後日系自動車メーカーおよびサプライヤーが取るべき製品戦略を検討する一方、中国市場の特性に合わせた地域戦略やロビー活動に取り組み、ITプラットフォーマーや地場の異業種企業との提携等を視野に入れるべきだ。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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