水害に恐怖した人に教えたい「流域」思考の本質 河川と下水道だけに治水を頼るなら防げない
――戦後の急激な開発の影響で、鶴見川流域では1958年の狩野川台風をはじめ、何度も大水害を引き起こしたという歴史があります。それを教訓に流域での治水が進んだということでしょうか。
洪水は流域で起こることはみんな知っているのですが、法体系で考えると、日本の治水は原則として河川法と下水道法に基づいています。ちょっと乱暴に言いますが、町は勝手に作っていいし、農業も林業も勝手にやっていい。流域で好き勝手にやっていいんです。そうすると保水力、遊水力が落ちて、水害の危険性が高まるので、予算を振り向けるから水害は下水道と河川で防いでほしいというのが日本の治水の体系なんですね。
しかし、鶴見川流域は、約40年前から河川法でも下水道法でもできない治水の対策をいっぱい始めました。流域にある東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、町田市が一体となった総合治水対策です。河川法と下水道法に基づいた治水以外に「流域対策」っていう項目を書き込み、森の保全や雨水調整地の整備などをこれまで延々とやってきました。こうした総合治水対策をやってなかったとしたら、今回の雨でも、鶴見川はあふれていた可能性が高いのです。
洪水は流域という生態系で起こります。河川法で川を整備する。河川を直線化したり、護岸を整備したり、ダムを造るなどという整備です。それが治水の基本ですが、それだけではだめで流域対策もやらなければならないというのが、鶴見川の総合治水の教訓なんですね。
河川法と下水道法に責任を押しつけている
――河川に頼りすぎなくて済むように。
はい。都市開発や農業のやり方を変えていけばいいんです。流域対策を河川や下水道事業ではない分野の都市の施策内部化してゆけばいいのですが、まだおおむねは、流域で起こる水害への対応を、河川法と下水道法に押し付けているのが実情ではないかと思います。
例えば、川沿いの田んぼに、大雨のとき、氾濫しそうな川の水を誘導し、積極的に遊水地として利用していく。街づくりのなかで、雨の水を保水するくぼ地を各所にたくさん作り、普段は池の底をスポーツ施設や市民菜園で利用したっていい。都市計画をする人たちが、どんどん工夫すればよいのです。