水害に恐怖した人に教えたい「流域」思考の本質 河川と下水道だけに治水を頼るなら防げない

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河川法、下水道法と調整しつつ、「流域で行われるすべての都市開発や土地利用は、保水力と遊水力に配慮しよう」ということを、都市や農地の計画に、緩くでも内部化できれば総合治水ということになるんですね。ただ、それをやったほうがやらないより得になるような法理的なシステム、経済システムがない。だから流域で洪水が起こることがわかっていても、みんな河川と下水道に押し付けているのが現状なのかもしれません。

――主に埼玉県の東部を流れる芝川でも今回の台風19号による雨が上流から流れ込み、氾濫が起きましたが、浸水想定区域に当たる「見沼田んぼ」に住宅が建てられていなかったため、川の氾濫が原因とみられる住宅への浸水被害は報告されていません。

見沼田んぼは1260ヘクタール(約12.6万平方キロメートル)という広大な面積を持つ大規模緑地空間で、1958年の狩野川台風で発生した水害の際に、自然の貯水池となって水を受け止め、下流の被害を抑えました。それを受けて宅地化を原則として認めない「見沼三原則」が1965年にできました。これは流域で洪水を防ぐ考え方ですね。

あれは昔だからできたことではありますが、みんながまねすればいいと思います。それが流域思考の神髄です。

流域の範囲は雨量によって変化

――台風19号の通過直後に、東京都内某所で荒川の様子を伺いました。これまでに見たことのない水量で河川敷も全部埋まるほどに川が増水していました。今回は堤防の決壊や氾濫を免れましたが、紙一重だったのではないかと思いました。

本当にすごい雨が来たら何が起こるかと言いますと、荒川と中川と江戸川が流域として全部つながってしまいます。それぞれの地元の人は全部別の川と思っているかもしれませんが、実は利根川にもつながっています。利根川の流域にすごい雨が降ると、東京都の港区役所のあたりまで利根川の流域になるんです。

流域の範囲そのものも雨量によって変化します。鶴見川の流域と多摩川の流域は普段の雨では別ですが、150年に一度、200年に一度の豪雨になれば、共通の氾濫が発生してしまい、下流では流域がつながって1つの川になります。

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