水害に恐怖した人に教えたい「流域」思考の本質 河川と下水道だけに治水を頼るなら防げない

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――利根川流域と荒川流域もつながってしまう?

下流では、1本の川になる可能性があります。流域の広がりは固定していない。行政上は固定しないと仕事にならないから、鶴見川の流域にはちゃんと線が引いてあります。雨が降ろうが降るまいが、これは流域なんです。でも自然は別に法律でできていませんから、ある雨量を超えちゃえば流域の形は別の形になります。

例えば多摩川と鶴見川は行政的には別々に管理されています。ハザードマップも別々。私が住んでいた横浜市鶴見区では、電柱に「当地は多摩川が氾濫すると1メートル、鶴見川が氾濫すると3メートル水没します」と掲示があったりします。

大きい雨が降ると一緒の流域になってしまうので、そんな警告が必要なんですね。もちろん、多摩川が大氾濫しているときに、鶴見川も同時に氾濫しているかもしれない。ハザードマップには両方の川が氾濫したらどうなるかは、まだ書かれていないのです。

3メートル水没する可能性がある場所で2階建ては避けよ

――私たちはどこに住んではいけないのでしょうか。

ハザードマップをよく見て、やはり3メートル水没する可能性がある場所は、2階建てなら、避けたほうがいいと思います。1階がすべて水に埋まってしまうということですからね。3階以上の建物ならば大丈夫と考えるかもしれませんが、水が長期的に引かなければ孤立して食べ物がなくなったり、病気になったりするかもしれないリスクもあります。

「流域は参考になる通常の書籍もサイトもまったくないはずの分野」と岸名誉教授は流域思考について語ってくれた(撮影:梅谷 秀司)

ただ、どこが局所的に大きく水没するか、それが長期化するかは通常のハザードマップだけではわかりません。地形をしっかり見たほうがいいし、地域に残っている過去の歴史や伝承、地名の由来なども参考になります。

東日本大震災のときもそうでしたが、今回の台風19号においても行政の避難警報が出る前に住民を全部逃がして難を逃れたような地域もあります。それは自治会長など地域のリーダーが地形や昔の伝承を知っているからなんです。

ひとこと言い添えておきますと、大雨の影響で土石流が起きて多くの人が亡くなっているのは、実は、数十ヘクタール規模の小さい流域だったりするんですね。河川単位の大きな流域だけでなく、小さな流域にも、しっかり目を配っておくことも重要なのです。これはまた、別の話題になりそうですね。

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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