大川小津波訴訟、遺族側の勝訴が変える学校安全 子どもの命を守る学校の責任は重い

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遺族らが起こした裁判は、一、二審とも石巻市と宮城県に賠償を命じた。しかし、その判決内容は大きく異なる。一審の仙台地裁が「地震の後の対応」を重視したのに対し、二審の仙台高裁は「地震の前の備え」、事前の予測や防災対策を重視した。

ハザードマップには、大川小が津波の浸水予測範囲に入っていなかったため、市や県は「事前に津波は予測できなかった」と主張した。それでも仙台高裁はハザードマップが完全なものではないことを指摘したうえで、校長らには子どもを守るために高い知識や経験が必要である、学校の危機管理マニュアルを改定して備えを充実すべきだった等と判断した。

「事前防災」に過失があったとして賠償を命じたものであり、この判断は学校や自治体に大きな衝撃を与えるものであった。

それゆえ、市や県は「学校現場に過大な義務を課している」などと主張して上告したが、いずれも退ける決定を出し、高裁判決が確定。市と県の敗訴となった。

子どもの命を預かる学校の責任は重い

11月23日、都内の専修大学で「シンポジウム 大川小学校津波訴訟とその意義」が開催され、原告(柴桃隆洋氏、只野英昭氏)、原告代理人(吉岡和弘弁護士、齋藤雅弘弁護士)、研究者(飯孝行・専修大学教授、髙橋眞・大阪市立大学教授、会津泉・多摩大学教授)が裁判の経過とその意義について述べた。筆者も参加したが、この事故は人災であり、この裁判が社会に与える影響は大きいと感じた。

齋藤雅弘弁護士がシンポジウムで述べた本裁判の主な意義から2つを紹介する。

① 国家賠償責任において、個々の公務員の過失に基づく違法な職務権限行使(代位責任が通説・判例)に分解せず、校長、教頭および教務主任を学校の管理・運営の地位にある者(組織の管理・運営者)として捉え、「組織」でくくって組織の構成員たる公務員の過失を判断する枠組みを採用した。
②安全確保義務の根拠を学校保健安全法26条から29条に求め、かつ、この義務は公教育制度を円滑に運営するための根源的義務であるとした。

①は従来、国家賠償訴訟では個々の公務員の具体的な過失が認定されてはじめて国家賠償が認められるが、本判決では「組織の過失」が判断基準となったことだ。そのために②も重要だ。

②で述べている学校保健安全法は従来の学校保健法を改正する形で2009年4月から施行された法律である。2001年6月に起きた大阪教育大学附属池田小学校での児童殺傷事件以後、学校防犯を含む「実効性ある」学校安全施策を求める声によって制定された。同法26条等は学校安全に関する学校の設置者の責務を定めている。控訴審の第1回口頭弁論において裁判長から以下の発言があった(筆者要約)。

大川小に在学していた児童の保護者は学校教育法17条1項に基づき児童を小学校に就学させる義務を負っており、また、教育委員会によって、児童を就学させるべき小学校を大川小に指定されていた。大川小に在学していた児童の在学関係がこうした特殊な在学関係であったことは学校保健安全法29条1項の定める「危険等発生時対処要領の作成義務」および同条2項の定める「校長の危険等発生時において職員が適切に対処するために必要な措置を講ずべき義務」の法的性質にいかなる影響を及ぼすか。各当事者としての意見を取りまとめ、準備書面として提出されたい。

吉岡和弘弁護士が、この控訴審での裁判長の発言の意義について強調した。この求釈明は、組織的過失を控訴審で争点とすることを踏まえ、その判断枠組みの前提となる公立小学校の児童・保護者と学校との法的関係、学校保健安全法に基づく学校が児童や保護者に負っている組織的な義務について、当事者の主張を明らかにさせるものだったと評価した。

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