大川小津波訴訟、遺族側の勝訴が変える学校安全 子どもの命を守る学校の責任は重い

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不在だった校長は、3月17日まで大川小を訪れず、また、児童の捜索に加わらなかった。亡くなった児童の遺族や行方不明の児童の保護者に対し、被災状況の説明もせず、開催することの告知もせぬまま、3月29日に生存児童だけを対象に登校式を開催し、「死亡した児童と行方不明の児童やその保護者に配慮したとはいえない挨拶」(原告遺族)等を行ったという。

石巻市教育委員会は、4月9日になり大川小の児童の津波被災について保護者説明会を開催、生存児童らへの聞き取り調査等を始めた。その後、2014年3月23日まで合計して10回の保護者説明会が開催され、遺族との間で質疑、意見交換がなされた。

だが、市教委は、その間、児童の聞き取りメモを廃棄、生存教員はPTSDを理由に説明会へ出席を拒否し続けたため、直接、事実経過を確認する機会すら設けられず、遺族側が望んでいた事実関係の解明は進まなかった。

これを受け、文部科学省が市教委と遺族との仲介に乗り出し、大川小学校事故検証委員会による検証を行うことを遺族も事実上、了解させられた。

委員長には、防災の専門家として室﨑益輝神戸大名誉教授が就き、検証が開始された。「報告書」は2014年2月にまとめられたが、大川小が被災した直接要因は避難開始の意思決定が遅れたことにあり、地震発生後の避難先(移動先)を川堤防付近としたことにあったと結論づけただけで、遺族が望んでいた「なぜ大川小だけが」の解明がなかった。

なぜ自然災害で国家賠償訴訟が起こされたのか?

最終的に、29名の遺族が国家賠償訴訟に踏み切った。遺族がそうせざるをえなかったのは、保護者説明会や検証委員会の検証結果でも、遺族が知りたかったことが解明されず、真実解明の場や方法が訴訟以外にない状況に追い込まれたためだ。せめてわが子が生きていた証しとして、学校防災の礎となるような法的判断をしてほしいという気持ちも遺族の中に強くなった。

裁判の経緯

一審の仙台地裁判決は、教職員らは津波の7分ほど前に、学校近くで津波襲来の可能性や高台避難を市の広報車が訴えていたのに、高台に児童らを避難させる義務を怠ったと認定した。被告である市と県が控訴した。

二審の仙台高裁は2018年4月、さらに踏み込んで事前対策の不備についても過失を認定し、賠償額も約1000万円増額した。高裁は、校長らは児童の安全を確保するうえで「地域住民よりはるかに高いレベルの知識と経験が求められる」と指摘した。大川小は市の津波ハザードマップの予想浸水区域外だったが、高裁は「広大な流域面積を有する北上川の近くにあり、津波の襲来は十分に予見できた」と認定。

さらに、2010年4月に改定した危機管理マニュアルに、具体的な津波からの避難場所として学校の裏山を指定し、避難方法などを決める必要があったのに、それを怠り、児童らが津波に巻き込まれたと結論づけた。石巻市の教育委員会も「マニュアルの是正を指導する義務を怠った」と指摘した。被告の市と県は上告した。

最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は2019年10月10日付で、市と県の上告を棄却する決定をした。これにより、計14億3600万円の賠償を命じた二審・仙台高裁判決を支持し、遺族側の勝訴が確定した。

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