「戦国武将」が実践していた知られざる健康法 武将たちも「酒の害」には悩まされていた

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米の収穫量が飛躍的に増えて食の選択の幅が広がり、珍しい食材や新しい食習慣が大陸やはるか南蛮からも入り始めるなかで、何をどう食べるべきか、人々に迷いが生じていました。現代に似た状況といえるかもしれません。

道三は陰陽五行説にもとづき、こう書いています。「日本人は水稲を育て、大豆から味噌を作り、深い海でとらえた魚を食べている。これらは陰と陽のうち陽のたべものだから、体に熱を与え、温めてくれる。生薬のなかで体を温める作用がもっとも強いのが高麗人参だが、日本人はつねに高麗人参を食べているようなものだ。これに対して大陸の人は陸稲を食べ、海の魚を捕らえることがめったにない。だから陽が不足しがちで、これを補うために鳥や獣の肉を食べるのだ。つまり、日本人が大陸の人をまねて肉を食べる必要はなく、むしろ病気のもとになる」

陰陽五行説では、ものごとを能動的な「陽」と、受動的な「陰」の2つの働きによって説明します。人の体についていうと、陰と陽のバランスがとれていれば健康で過ごすことができ、バランスが崩れると病気になるとされています。

現代の感覚に照らすと非科学的に聞こえるかもしれませんが、ここで重要なのは、風土と食生活が体を作ると道三が考えたことです。

日本人のための医学を追求すべきという道三の信念

大陸の人と日本人は生活環境も食べ物も異なり、これが気質の違いにあらわれている。体も違って当たり前で、病気の治療法も日ごろの健康法も同じでよいはずがない。大陸の伝統医学や南蛮医学を盲信せず、日本人のための医学を追究すべきだ。これが道三の信念でした。 

近代的な医学研究が一切行われていなかった時代にあって、道三の強みは東西の文献に通じ、こんにちの医学者をしのぐほどの徹底的な観察と思索を重ねたことです。茶の湯に造詣が深い文化人でもあったことから、将軍足利義輝、正親町天皇をはじめ、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、毛利元就、細川晴元、三好長慶、松永久秀、明智光秀など著名な武将に治療をほどこし、信頼と尊敬を集めたと言われています。

武将らがこぞって体にいい食事を追求したのは、自身の健康状態が、戦の勝ち負けと同じように一族の存亡に関わることを知っていたからです。曲直瀬道三の実用的な医療がもてはやされたのには、こういう事情がありました。

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