「寅さん」を支えた葛飾柴又の知られざる人情 山田監督や渥美清は親戚のような存在だった

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店先で名物の天ぷらを揚げる大須賀仁さん(撮影:「東京人」編集部)

エキストラとして映画にも出させてもらいましたよ。門前の中ではうちの親父と僕がいちばん多く出ているんじゃないかな。監督から「白衣のままでいいから、ちょっと歩いて」と声がかかるんです。

僕が最初に出演したのは5歳でした。第4作『新男はつらいよ』では、栗原小巻さんがマドンナ春子先生を演じているのですが、春子先生が勤める幼稚園の生徒として出ています。当時通っていた帝釈天のルンビニー幼稚園が、舞台になっているからです。

小林俊一監督は撮影では厳しくて、テストの繰り返しで子どもたちは飽きてしまう。すると渥美さんが、土手でわざとずっこけてみせたり、出演されていたCMの「パンシロンでパンパンパン」というメロディを口ずさんだりして笑わせてくれるんです。「あっ、パンシロンのおじさんだ」と子どもたちの目が輝きだし、また集中して撮影できたのを覚えています。

写真嫌いの渥美清が…

帝釈天題経寺の寺男・源公を演じた佐藤蛾次郎さんは撮影の合間によく来られて、天丼を食べたり、うちの親父と話したりしていましたね。蛾次郎さんは料理上手で人格者なんです。僕が店のまかない飯を作っている最中にお客さんがいらして天ぷらを揚げなくちゃならないときなど、「お兄ちゃん、俺がまかないを見ていてあげるよ」といってこしらえてくれちゃうんです。

「大和家」店内の壁にずらりと貼られた第1作目からの『男はつらいよ』大入り袋(撮影:「東京人」編集部)

御前様役の笠智衆さんの面倒もよく見られ、電車で送って行かれました。倍賞千恵子さんはとっても気さくなんです。店の厨房で白衣を着て一生懸命にかつを節をかいている人がいたから、新しいお手伝いさんかと思ったら倍賞さんでした。

第48作の撮影終盤。渥美さんがふらっと店に入ってきて、「あれ、親父と写真撮ったことないね」と言いだしたんです。渥美さんはプライベートで写真を撮られるのが好きじゃないと知っているので、うちの親父は「だって、渥美ちゃん、写真嫌いじゃねいか」と答えたら、「親父、変なこと覚えてるな。でもたまには親父と撮るか。せがれも入るか」なんて言ってね。年が明けて8月に渥美さんは亡くなりました。親父は渥美ちゃんに頼まれて撮った写真だと今も自慢しています。

(文/金丸裕子)

《PROFILE》
金丸裕子(かなまる ゆうこ)
/ライター。企画や編集を手がけた本は『向田邦子の本棚』『お茶をどうぞ 対談 向田邦子と16人』『カコちゃんが語る 植田正治の写真と生活』など。
「東京人」編集部
とうきょうじんへんしゅうぶ / Tokyojin

都市出版が毎月3日に発行する1986年創刊の月刊誌です。「都市を味わい、都市を批評し、都市を創る」をキャッチフレーズに、歴史・文化・風俗・建築・文学など、都市文化の新たな相貌を照らし出します。

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