「寅さん」を支えた葛飾柴又の知られざる人情

山田監督や渥美清は親戚のような存在だった

父の源七は養子でして、農家の出身で戦争にも行ったりして苦労をしています。監督はとりわけ父との会話を好まれ、昔のことわざや小さな思い出話をよく聞かれていました。第15作『寅次郎相合い傘』には、「メロン騒動」と呼ばれる有名なシーンがあります。おばちゃんが、寅さんを頭数に入れ忘れてメロンを切り分け、みんなで食べ始めたときに寅さんが帰ってきてけんかになるのです。父の話がヒントになっているようです。

寅さんの指定席に座る6代目石川宏太さん(撮影:「東京人」編集部)

母は、おばちゃん役の三崎千恵子さんに聞かれて、おかみさんの着こなしや所作、心構えをお伝えしていました。割烹着を着ているところなど映画のおばちゃんと母はどことなく似ているし、下條正巳さんが演じた3代目のおいちゃんは父にそっくり。監督は下町言葉やたんか売についてもよくご存じで、実際にどう使われるのか、まちの人を観察してリアリティが出る演出をなさっていました。

監督はもとより、俳優の皆さんもまちのわれわれにとても気を遣ってくださいました。1970年に祖父が亡くなり、それまで祖父の声で吹き込んでいた「いらっしゃい、いらっしゃい」という呼び込みのテープを使えなくて困ったなぁと渥美清さんに話をしたら、「お兄ちゃん、持ってきな」と言ってテープに吹き込んでくれました。正月に店頭で少し流したのですが、さすがにまずいだろうということで、今やうちのお宝になっています。 

何よりも、寅さん映画は故郷柴又や私自身を外から見つめ直す機会を与えてくれました。映画がなければ、私は店を継がなかったかもしれない。監督が変わるな、と言ってくれたおかげで今の柴又があるのです。

うちは松竹宣伝部柴又分室

髙木屋老舗に隣接する大和家は、「株式会社松竹宣伝部柴又分室」という異名を持つ、松竹宣伝部のたまり場だった。6代目の大須賀仁さんに語っていただいた。

第1作を製作する以前に、のちに「寅さん課長」と呼ばれた元松竹宣伝部寅さん課の宣伝マン、池田壮太郎さんが参道の店を1軒ずつ挨拶に回られました。その際に案内をしたのが当時の神明会副会長だったうちの親父、大須賀忠雄でした。その縁で宣伝部の方々がうちの店に集まるようになったんです。

仕事が終わってバレた(解散した)後に飯を食うからバレ飯と言うんですが、そのうち宴会が始まる。まるで親戚のおじさんたちがお酒を飲みながら、くだらないことを言い合って笑っているようで、見ていて楽しかったですね。親父は分室長と呼ばれていました。今年90歳になるけど、まだ首を言い渡されていないから、そのままということでしょうね。

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