就活と院試が両立できない理系学生のジレンマ 本格的な研究しなくても企業は評価するが…

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とくに化学専攻や生物・農学専攻に限ると、対象者は6割を超える。中には、「就活の繁忙期でも研究室にスケジュールを融通してもらえない」と、就活しづらい雰囲気がある研究室もあるという。

そうした、拘束時間がなくても、日々の研究に時間が割かれる。理系学生の多くは4年生になると朝から晩まで実験や研究に追われる日々が続く。

また、進学するか否かの決断も求められる。大学院進学となると、4年生の夏ごろまで院試(大学院入学試験)の準備に追われる。就活は3年生の終わりから4年生の6月ごろまでがピークのため、大学院に行くなら就活はほぼ断念せざるをえない。

仮に志望の大学院に合格できなかった場合、その段階では、大手企業の採用は終了しており、選択肢が限られてしまう。そのリスクを恐れ、就職を選ぶ学生も少なくない。

今の就活の仕組みでは理系学生をきちんと評価することができないという意見もある。3年生の段階で本格的な研究を行う学生は少ない。つまり企業側も学業の評価はほとんどせずに「理系だから」という理由だけで採用しているフシがある。就活の早期化が進むと、さらに「青田買い」的な採用が増える可能性がある。 

大学院進学率は上昇するか

この点に関しては、経団連と大学間で、就職・採用活動の在り方などの議論を進めている「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」でも遡上に載せられている。4月に出された「中間取りまとめと共同宣言」の中で、文系、理系に限った話ではないが、「実質3年間の大学教育では、人材育成の学修時間としては不十分」とし、採用のあり方について検討を進めている。同時に「大学院レベルまでの教育を重視していく必要がある」と記載している。

「日本のトップメーカーの多くは研究職や技術職は、大学院卒以外は採用しない」(平野所長)という状況だが、メーカー以外の多くの企業が大学院修了レベルの学力や実績を評価するようになれば、もっと理系学生が大学院に進む環境が整っていくと思われる。

大学側も「大学院に進学する学生をもっと増やすべきだし、増やしていきたい」(都内の私立理系大学の学長)と語る。現在、理系の全体平均で3割前後の大学院進学率がもっと高まり、新しい技術や製品を生み出せる人材も増え、日本経済の底上げにもつながるかもしれない。

『週刊東洋経済』11月30日号(11月25日発売号)の特集は「本当に強い理系大学」です。
宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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