中絶を後押しする「新型出生前診断」の難しさ 母親の知る権利だけが一人歩きしていないか

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──それを一般診療にする動きが。

新聞によると日本産科婦人科学会が未認定の実施機関が40あり、うち37は産婦人科医がいない。他科の医師が採血して、米英に送り5万〜10万円の利益を得ている。学会は自由診療で野放しにするより、一般診療で自らの管理下に、という考え。いわばワーストよりもワース。でもワースはワースです。日本小児科学会や日本人類遺伝学会は、命を預かる医師が理念を捨ててどうする、と怒っている。

どんな子でも等しく人権はある

──滑りやすい坂、ですね。

生命倫理学者がよく使う言葉で、倫理的な規範を1つ緩めると歯止めが利かなくなることを指します。今まさに緩められようとしていて、厚生労働省が介入している。私たちが受けた検査でも同様のことがあり、当時の厚生省の諮問会議の結論は「積極的に検査を妊婦に知らせる必要なし」でした。そして、障害と不幸はイコールではないと役所にしてはいいことを言った。

『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(書影をクリックするとアマゾンのサイトへジャンプします)

──「疾病欠陥理由の中絶の是非を議論すべき時」と書いています。

中絶を認める立場から出るのは、母親の知る権利。では、ダウン症の子供がどう生きているか、家族がどういう価値観を持ち、人生の意味をどう捉えているかを伝えているか、と問いたい。それをせずに、この検査なら中絶の判断ができます、では、知る権利に値しない。

──障害児への治療をめぐる医師の苦悩も含め、障害児、胎児の置かれた状況がわかりました。

知った後は、理解してほしいのです。中途半端に知るのが怖い。相模原市の障害者施設を襲った犯人も、職員として働いて障害者や家族の日常を知っていた。うわべだけでなく、障害者を育てている家族がどういう価値観を持っているのか、どういう幸福を感じているのかを理解してほしい。

実は医師も同じです。技術者なので手術したら終わり。家族の思いなんて知らないから、脳の状態や表情の有無で線引きし、こんな子を助けても仕方ないと思う医師もいます。でも、どんな子でも等しく人権はある。そこで線引きをしたら、相模原事件の犯人と同じなのです。

(聞き手:筒井 幹雄)

週刊東洋経済編集部
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