人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない 斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る
水野:資本主義が終わろうとしない根本的な要因は、株式会社という仕組みにあります。株式会社は、1回きりの事業清算ではなくて、永久に存在することを前提とします。人間には寿命があるけれど、法人格には寿命はありません。だから無限に利潤を増殖させようとするわけです。
世の中に資本が足りない時代はそれでよかったのかもしれませんが、いまの日独仏などの先進国は、明らかに供給力が過剰です。供給力が過剰だから、投資してもリターンがない。先ほど話したマイナス金利はその現れです。
本来なら、ここで資本主義を卒業すればいいのに、相変わらず政府も企業も稼げ、稼げと旗を振っています。その根っこにあるのが、株式会社の永続性です。ですから、資本主義を終わらせるためには、法人格にも一定の寿命を与える必要があります。例えば中世のように、1代かぎりで解散すればいいんです。
「ブルシット・ジョブ」が資本を延命させる
斎藤:富も生産力もすでに十分あるわけですよね。よく言われる話ですが、世界で最も裕福な8人は、下位半分の36億人と同じだけの資産を持っています。ジェフ・ベゾスとかマーク・ザッカーバーグは、一生かけても使い切れないようなお金を貯めてしまっているわけです。それでもさらに金持ちになろうとしている。これは不合理です。
これは別の見方をすれば、36億人の生活をもっと豊かにできる富や生産力を、すでに人間は持っているということです。にもかかわらず、いまだに多くの人が低賃金と長時間労働を強いられているし、利潤はひと握りの金持ちに集中しています。
ここで問題なのは、今や、デヴィッド・グレーバーが「ブルシット・ジョブ」(クソくだらない仕事)と呼ぶような、やらなくてもいい仕事がゴマンとあることです。しかし資本や国家はわざわざそういう雇用を創出して、資本主義を延命させようとしているのですね。
その極端な例がブレグジットです。ブレグジットによって、イギリスには弁護士や税理士に大量の仕事が生まれるわけですよ。でもこれらは、イギリスがEUから離脱しなければ発生しない仕事です。資本主義はそうやって意味のない仕事をつくって、なんとか新しいマーケットを作り出すという状態になっています。
この現状をまず変えなければいけません。そのためには無駄な生産活動をやめて、労働時間も減らすことです。余計な生産活動がなくなれば、その分、環境負荷も減るわけですから。