人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない 斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る

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水野:定常社会になれば労働時間も減るし、資本や富を社会化することで、貧困やひどい格差も解消されます。『未来への大分岐』で政治哲学者マイケル・ハートと斎藤さんが交わした議論の中にも出てきた「脱商品化」が、大事なキーワードですね。

斎藤:そうです。いま水野さんがおっしゃったことと、持続可能なグリーン経済にすることはひとつながりなんです。

例えば無償の公共交通機関を整備しないと、脱クルマ社会は実現しません。つまり、持続可能な社会を実現することは、脱商品化された生活基盤をつくりだすことにつながっている。それが、ポスト・キャピタリズムへの道を開く大きな契機になるのだと思います。

人類の歴史は、ハード・ランディングばかり?

水野:ところで前編の議論の中では、資本主義を主体的に終わらせるには、という話をしましたが、その一方で資本主義が自壊していく可能性も私は感じているのです。

水野和夫(みずの かずお)/1953年生まれ。法政大学法学部教授(現代日本経済論)。博士(経済学)。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)などを歴任。主な著作に『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』(以上、日本経済新聞出版社)、『資本主義の終焉と歴史の危機』『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(以上、集英社)など(撮影:露木聡子)

おそらく2040年代になると、資本主義の基盤がもう成り立たなくなるからです。その基盤とは、化石エネルギーです。今後、使えるエネルギーはどんどん減っていくからです。

1930年代は「1」のエネルギーを投入すれば、「100」のエネルギーが取り出せました。これは、掘れば勝手に石油が自噴したからです。しかし簡単に採掘できる場所の原油は掘り尽くし、採掘の難しい海底であったり、手間のかかるオイル・サンドから原油を搾り取ったりするようになっていきます。そうすると採掘のコストがどんどん高くなっていき、エネルギー収支が見合わなくなってきているのです。

斎藤:未開発の油田はまだあるけれど、掘っても儲からなくなるということですか。

水野:儲けも出ませんが、「1」のエネルギーを採掘するのに「1」のエネルギーを使う必要があるなら、採掘する意味はありません。

近代資本主義は、化石燃料が無限にあることを前提にできたからこそ、成長至上主義を疑わずにやってくることができました。もうその化石燃料が使えなくなるのですから、資本主義も限界を迎える。

ただ、もちろん問題は、その資本主義の終わらせ方です。化石燃料が使えないのに、資本主義が悪あがきをすればハード・ランディングになって、人類の危機、文明の危機をまねいてしまいます。理想的には、化石燃料が使えなくなる前に、資本主義が終わってくれればいいのですが。

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