人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない 斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る

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斎藤:でも、世界的にはポスト・キャピタリズムという考え方が結構出てきています。これまでの新自由主義に対抗するためには、単に「ノー」と言うだけではダメで、この危機をチャンスとして、より豊かな新しい社会を構想する必要があるわけです。

じゃあ、われわれはどういう社会に住みたいのか。ごく少数の富裕層を除けば、誰だって、より平等で、より自由で、持続可能な社会に住みたいはずです。気候変動のような地球規模の危機を、新しい社会をつくるためのチャンスにしようという議論が、今ヨーロッパやアメリカで出てきているのです。

ポスト・キャピタリズムをどう実現するか

水野:世界的にポスト資本主義の議論がいろいろと出てきている状況の中で、斎藤さんは、日本の現状をどう捉えているんですか。

斎藤幸平(さいとう こうへい)/1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済研究科准教授。専門は経済思想。博士(哲学)。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。Karl Marx's Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy(Monthly Review Press/邦訳『大洪水の前に』・堀之内出版)でドイッチャー記念賞を歴代最年少で受賞。マイケル・ハート、マルクス・ガブリエルなど世界の知識人と議論した対談集『未来への大分岐』(集英社)で注目を浴びる(撮影:露木聡子)

斎藤:まず、世界でそういう議論が起こっている事実が全然知られていません。例えば、日本共産党が本当に資本主義を乗り越えることを目指しているなら、真っ先にグリーン・ニューディール政策を打ち出すべきだと思うんです。

でも、ポスト・キャピタリズムの「ポ」の字も出てこないし、グリーン・ニューディールやベーシック・インカムの議論も全然出てこない。これは選挙政治にとらわれているからです。非現実的だと言われるのを恐れているのです。

水野:条件的には、日本はポスト資本主義や定常経済にいちばんシフトしやすいのに、なんらアクションが出ないどころか、政府も企業も逆走しています。

斎藤:このままでは、どんどん取り残されていってしまいますよね。それじゃまずいと思います。

水であったり、電力であったり、インターネットであったり、非常にさまざまですが、生活のために不可欠な社会的な共同財産、要するに社会的インフラの「コモン」が、資本主義のもとでは解体され、資本によって独占されてしまう。そして、利潤獲得のために略奪されていく。

「コモン」をソ連の失敗を繰り返さない形で、人々の手に取り戻すためには、国家の力を使うだけではなく、むしろ人々がアソシエーションを形成して、資本の力を弱めるような社会運動を展開していくことが重要なのです。実際、EUやアメリカで起きているグリーン・ニューディールやポスト・キャピタリズムを求める新しい政治の動きも、「下からの運動」があってこそ生まれたものです。

「上からの政策」だけでは、結局、グリーン・ニューディールもさらなる経済成長のためのケインズ主義止まりで、地球からの略奪をやめることはできないでしょう。

社会運動を下火にしないためには、そして日本で活性化させるためには、現在の社会を批判するだけでなく、ポスト・キャピタリズムの社会が今よりも魅力があり、豊かであることをもっと伝えていかないといけません。

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