人類は富を創出してもこれ以上豊かにならない 斎藤幸平×水野和夫「ポスト資本主義」を語る

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斎藤:資本主義はそう簡単に終わらないんじゃないかと私は危惧しています。石油がないと生きていけないような社会システムが続けば、無理をしてでも掘り続ける可能性も高い。価格を吊り上げても、購入する層は存在します。

資本はネガティブな出来事でしょうが、チャンスがあればそこにどんどん投資していくのではないでしょうか。

例えば干ばつが起きたら、干ばつに強い遺伝子組換え作物や、干ばつでも育つような肥料を販売する。水が足りないのであれば、水をどこかから持ってきて、それを高値で販売する。あるいは山火事のリスクが高ければ、山火事が起きたときにすぐに助けてくれるレスキュー隊保険のようなサービスを販売する。

その中でも、今いちばん大きいビジネスチャンスがジオ・エンジニアリング、気候工学や地球工学と言われるものです。これは、地球に入ってくる太陽光を遮断して気温上昇をコントロールしようとするもので、ビル・ゲイツなんかも投資しています。

技術を活用しても取り返しがつかない可能性も

水野:具体的にはどんな技術ですか。

斎藤:例えば太陽光を反射するようなパネルを宇宙に飛ばすとか、小さい硫黄の粒子(エアロゾル)を大気圏にまいて、人工的にずっと曇っている状態をつくり出し、太陽光を遮断するといった技術です。海に大量の鉄をまいて、プランクトンを大量繁殖させ、光合成を促進して二酸化炭素を吸収させるというアイデアもあります。

地球規模で大気システムや海洋システムに介入するわけですから、大規模なプロジェクトになるし、膨大な研究費がかかります。しかし、もしプロジェクトが採用されれば、巨額の研究費が入るので、それが新しいビジネスチャンスにもなるわけです。

一見、こうしたテクノロジーは気候変動の問題を解決する奥の手のように見えますが、逆にそれがもっと大きな地球規模での物質代謝の攪乱につながってしまう可能性もあるわけです。鉄をまきすぎて海洋の魚が大量に死んでしまうかもしれないし、気候システムに介入した結果、雨がまったく降らなくなるような地域が出てくるかもしれない。

しかも、1度やったら取り返しがつかないのです。だから環境危機が高まれば、資本が自主的に諦めてグリーンな経済に移行するという考えは楽観的すぎます。

実際、歴史を振り返っても、システムが崩壊するときというのは、粘って粘って最終的に戦争、略奪、内紛、殺し合いが起きるのが常です。いわば人類の歴史は、ハード・ランディングの歴史でした。革命だって1つのハード・ランディングと言えるかもしれない。そうすると、ソフト・ランディングは存在しないのかもしれません。

水野さんは、資本主義のハード・ランディングを避けるために、どうすればいいとお考えですか。

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