阿部寛「二枚目を捨て獲得した」クセのある魅力

「難あり物件の中年」演じたら並ぶ者はいない

塩顔全盛の平成末期、隠れ筋肉系がひそかに脚光を浴び始める。脱いだら予想以上に胸筋が発達している俳優は、ネット上でその画像が貼られまくる。ドラマでも俳優たちはやたらと上半身裸にされる。むっつりスケベな女性たちが欲望をあらわにし始めた頃でもある。

そんなとき、映画『テルマエ・ロマエ』(2012)で、堂々と惜しげもなくマッチョを見せつけた阿部寛。濃い顔にマッチョ、暑苦しさ全開で笑いをとる姿は神々しいレベルに。

男気が暑苦しい『下町ロケット』(TBS・2015、2018)も高評価で、そのまま筋肉系や精神的体育会系、男気ドラマの方向へ舵を切るんだろうなぁと残念に思っていたら、阿部寛は裏切らなかった。あれはフェイント。偏屈な変人系にしれっと戻り、茶の間を笑わせてくれたのである。

『スニッファー 嗅覚捜査官』(NHK・2016)では、嗅覚が異様に優れたコンサルタント役で、とにかく鼻にいろいろと詰める。優れているのは嗅覚だけで、ほかに特筆すべき才能はない。根性も男気もない。美人に弱い。「天は二物を与えず」という法則を遵守したのだ。

「脱皮と再生」を繰り返した三十数年

そして今期、待望のあの男が帰ってきた。厄介な独身男性・桑野信介が主人公の『まだ結婚できない男』である。カンテレが諦めずに温めておいてくれた名作だ。宝の持ち腐れ感、残念感、威厳レス、持ちうるすべての厄介さを総動員し、他人に狭量・自己愛を貫いている。意固地さに加齢も加わり、13年の経年劣化を心地よく体現。手厳しい評価を下されがちな続編ドラマの中でも、阿部寛は難あり物件を見事にバージョンアップした。

この三十数年の阿部寛のキャリア戦略は、実に見事だ。演じる役が定着しすぎて出演する作品を狭めることもなく、選びすぎて寡作になり世間から忘れ去られることもなく、たえず脱皮と再生を繰り返してきた。阿部と同じく福士蒼汰も東出昌大も大谷亮平も安心してほしい。アベパイセンが切り拓いた道は、俳優界のロールモデルとして参考になるはず。

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