阿部寛「二枚目を捨て獲得した」クセのある魅力

「難あり物件の中年」演じたら並ぶ者はいない

むしろ、ささやかな日常を描く作品の中で、どうにもこうにも浮かばれない「難あり物件の中年男」や「女系家族で虐げられる男」のほうが色濃く残る。威厳のない阿部寛を実にうまく活かしたのが、フジテレビ系(カンテレ)のドラマだ。『アットホーム・ダッド』(2004)、『結婚できない男』(2006)、『ゴーイング マイ ホーム』(2012)はひそかに「阿部寛の威厳レス3部作」と呼んでいる私の大好物。カンテレに拍手喝采だ。

広告代理店を突然リストラされて専業主夫になるも、プライドが高くて四苦八苦する男、偏屈で皮肉屋の独身男、事なかれ主義の風見鶏男。そうそう、こういう阿部寛が最もしっくりくるわけよ。そこそこプライド高くて仕事もできるが、家の中ではカースト最下層。妻や母、姉妹には頭が上がらない。この矮小さを体の大きな阿部が演じることにこそ意義がある。

同じ流れで言えば、是枝裕和監督の映画『歩いても歩いても』(2008)、『海よりもまだ深く』(2016)もある。『ゴーイング マイ ホーム』も含めて、是枝監督の「主人公の名前が良多」シリーズは、阿部寛の矮小さを存分に堪能できる名作と断言したい(妻や母を演じる女優陣も適役だった)。

二枚目を捨てて、手に入れたもの

つまり、格下げの美学が功を奏している。二枚目を捨て、威厳を捨て、男の沽券を捨てたら、頼りなくて情けないのになぜか憎めないアベちゃんが残った。今までになかった愛らしさが生まれ、親近感も増量したのだ。

もごもごと理屈をこねて無駄に冗舌な役を演じる一方で、真逆の無口な元受刑者役も定期的にこなす。イメージ定着を避けるためか、高倉健オマージュか。『白い春』(関西テレビ・2009)は殺人を犯し、刑期を終えた元極道、『遥かなる山の呼び声』(BSプレミアム・2018)では傷害致死事件を起こした逃亡犯役。三の線を踏み越えたからこそ、陰のある無口な役が新鮮に映る。作戦勝ちだ。

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