阿部寛「二枚目を捨て獲得した」クセのある魅力 「難あり物件の中年」演じたら並ぶ者はいない

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俳優・阿部寛の源流というか、転機はつかこうへいの舞台だ。93年から出演した『熱海殺人事件 モンテカルロイリュージョン』で、発声法から立ち居振る舞い、コメディー筋肉まで、滑舌以外のすべてのスキルを身に付けたのだ。

「棒高跳びをやっているホモセクシュアル」設定の木村伝兵衛刑事部長役で、メンノン臭を払拭することに成功。つかこうへいの慧眼にはひれ伏す。瀕死の阿部寛を蘇生して、生まれ変わらせたのだから。

そもそも、みんなうっすら思っていたはずだ。カッコイイが、なんか違う。ただただ爽やかな二枚目と手放しで賞賛できない。何かが邪魔をする。嶋田久作とちょっとかぶる狂気が横顔に含まれているからだろうか。

二枚目だが、弱きを助け、強きをくじく正義のヒーローはあまり似合わないし、決してモテ系ではない。どこか理屈っぽくて、プライドや性根がねじけたほうがしっくりくる。恵まれたルックスを本人が謳歌できていない、あるいは台無しにする言動のほうがストンと腑に落ちる。

宝の持ち腐れ感がちょうどええ

そんな「宝の持ち腐れ」感を存分に発揮したのが『TRICK』(テレビ朝日・2000~2014年)だ。天才物理学者・上田次郎の役は実に適役、当たり役だったと思う。プライドはチョモランマ級に高く、心は猫の額よりも狭くて小さい。最大の説得力は、巨根がゆえに恋愛がうまくいかない点である。持ち腐れ感ここに極まれり。その設定に妙に納得した記憶がある。

昭和末期は絶世のハンサムとして世に放たれたものの、時代は薄さ礼賛の平成へ。顔も体も気力も薄くて細い男性が新たな理想となったとき、濃い顔の阿部寛が身に付けたのは「残念感」だった。もちろん、正統派の大作にも出演し、大役も数多くこなして高評価を得ているのだが、個人的にはそっちの記憶があまりない。超越した凛々しさが壮大な物語の中で当たり前すぎて、目立たなくなる。悪い意味で王道になじみすぎてしまうのだ。

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