「ジョーカー」アカデミー賞をはばむ2つの壁 最大のライバルはデ・ニーロ&ヒトラー映画

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後日行った筆者とのインタビューでは、「あれは言いすぎだった。主人公はジョーカーだし、舞台はゴッサムシティなのだから、関係はもちろんある。でも、足の指を1本突っ込んでいる程度だ」と撤回しているが、言いたいことは十分わかる。それでも、保守的なアカデミー会員には、アメコミがベースの映画に高尚な賞をあげるのは違うと思う人が、おそらくいるはずだ。

次のハードルは、バイオレンスである。アカデミー会員向けの上映会の反響は、必ずしも好評の嵐というわけではなかったそうなのだが、そこには作中のバイオレンス描写が大きく関係していたようだ。

『ノーカントリー』や『ディパーテッド』など例外もあるものの、一般的に言って、アカデミーは、バイオレンスたっぷりの作品を好まない(『それでも夜は明ける』もバイオレンス描写が激しく見るのがかなりつらい映画だが、この映画の場合は奴隷時代を正しく描くものとして受け入れられている)。

ただし、『ジョーカー』は、本当のところ、人が感じるほどにはバイオレンスにあふれた映画ではない。「最近『ジョン・ウィック』を見たけど、あっちのほうがもっとたくさん人が死んでいたよ。『アベンジャーズ』もそう。僕の映画では、観客が死をリアルに感じるにすぎない」と、フィリップス監督は筆者とのインタビューで語っている。アカデミー会員を説得し、それをわかってもらうことが、今後の課題と言えるだろう。

「主演男優賞」はどうか?

次に、主演のホアキン・フェニックスを見てみよう。まず、アカデミーは、実在の人物を好む。過去9年に主演男優賞を受賞した俳優のうち7人が実在の人物を演じていることからも、それは明白だ。今年はフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレック、昨年はウィンストン・チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンが主演男優賞を受賞している。

ヒース・レジャーが、過去にジョーカー役で助演男優賞を受賞しているというのも、障害になりえる。「なんだ、アメコミキャラでも受賞できるんじゃないか」と思うかもしれないが、レジャーは特殊な例だった。

彼は『ダークナイト』が公開されるおよそ半年前に、28歳の若さで突然の死を遂げているのだ。レジャーの演技は文句なく賞に値するものだが、この受賞には、彼のキャリアに対する評価や彼への敬意、追悼の気持ちが込められていたと思われる。同じ役でまた別の俳優に、となると話は違う。

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