ダイソンがEVから撤退せざるをえなかった理由

テスラが築いた「高くて構わない」はもう飽和

だからまじめにバランスのよいクルマを作ろうとすればするほど、お値段はお高め、航続距離は少しやせ我慢して「わりと余裕ですよ」と言えるくらい、装備は少し悲しめのEVが出来上がる。バッテリーが高いのがすべて悪い。このトラップから誰が抜け出せるかのレースが今のEVマーケットの本命だ。

テスラの発明

これらの状況を一点突破で見事にぶち破って見せたのがテスラで、彼らのコロンブスの卵は「高くていいじゃん」だった。それならば存分にバッテリーを搭載し、装備もガジェット好きのハートを打ち抜くようなギミックをモリモリに搭載できる。

まじめな自動車エンジニアが「環境のためのEVなのだから」と爪に火をともすようにバッテリー電力を節約するのを尻目に、EVはゼロエミッションだからどんなに電気を使ってもおとがめなしとばかりに、時速100キロまで3秒の加速でキャラクターを打ち出す。発電所が温室効果ガスを出すのは発電所の問題なので、クルマ側の問題ではない。そう割り切った。

こうやってプレミアムEVというジャンルを確立したテスラによって、EVは商品として初めて注目を集めることになったのだ。初めて客に喜んで買ってもらえるEVを製品化したという意味でテスラの功績は計り知れない。

ただし、それが環境社会の求めているEVかといえばそうではない。富裕層が求める新しモノとしての需要を喚起したにすぎない。つまりグローバル環境が求めているEVと脚光を浴びているプレミアムEVは、本当は同じものではない。そこにねじれ構造がある。

整理しよう。現在ビジネスモデルとして成立しているのはテスラのようなプレミアムEV。儲かりはしないけれど、人類の責任として未来のために必要なのが日産自動車「リーフ」のようなバランス型EV。

そしてもう1つ下に都市内交通として短距離に特化したEVがある。例えばセブン-イレブンの配達用に使われている安価な1人乗り超小型EV「コムス」。コムスは現状のバッテリーの性能を前提に考えれば、EVとして論理的に最も正しい解だと思うが、商品性はないに等しい。

トヨタの超小型EV「コムス」(写真:トヨタ自動車)

ダイソンがこのうちどれをやろうとしたか? おそらくはテスラと、リーフとの間を狙っていたと思う。利益を出そうと考えればそこしかない。

しかしながら、この数年でその環境が激変した。プレミアムEVはもうレッドオーシャン化まっしぐらだ。既存の自動車メーカーが、グローバルな各種温室効果ガス規制を課せられた結果、プレミアム系の自動車ブランドは全社漏れなくそのマーケットへと転進を余儀なくされた。

次ページ掃除機ではハイブランドのダイソンだが…
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