化学業界:石化事業の構造改革進めるも信用力の回復には時間《スタンダード&プアーズの業界展望》
足元では苦戦する多角化事業も中長期的には成長期待も
4社はこれまで、製品の高付加価値化や事業の多角化で、石化事業の収益変動を緩和する戦略を推進してきたが、足元では多くの事業で大幅に減益となるなど、その効果を発揮できていない。2009年3月期は、石化関連事業の収益の悪化がいちばん大きかったが、エレクトロニクス事業や自動車向けの高付加価値製品分野でも収益が悪化した。ただし、これら高付加価値製品は利益率が比較的高く、市場自体の伸びも期待できるものが多い。用途市場の需給変動に左右されるリスクは残るものの、相対的には石化事業に比べてリスクは低い。
住友化学や、三菱ケミカルHD、旭化成が手掛ける医薬・医療、農薬事業は、景気変動の影響を受けにくく、需要見通しが安定している。各社は自社の技術基盤の強みのある分野に特化して展開しているため事業基盤は強いうえ(もちろん製薬や農薬専業大手に比べれば弱いが)、利益率も相対的に高く安定しており、全体収益の下支えに一定程度寄与している。医薬・農薬業界ではM&Aが活発で、住友化学の子会社の大日本住友製薬も9月に米国の製薬会社セプラコア(格付けなし)を買収すると発表した。化学企業にとって、需要が安定し収益性の高い同分野は魅力であり、今後も各社は同分野に注力するとともに、M&Aも用いて収益拡大を図る、とスタンダード&プアーズは考えている。
石化事業の見通しが厳しいことから、各社は引き続き事業の多角化を推進していくとスタンダード&プアーズは考えている。多角化では、需給変動の相関が低く、収益性・キャッシュフロー創出力も高い事業分野をできるだけ多く確保できるのが望ましい。しかし、石化事業が好調だった2006~2007年度のような水準まで非石化事業のキャッシュフロー創出力を自力成長だけで引き上げるのは、短期的には難しいだろう。一方で、多角化を推進するには、M&Aに限らず、膨大な設備投資や研究開発費が必要なケースも多く、財務負担が増す場合もある。多角化が一概に信用力評価上ポジティブとは言い切れず、バランスの取れた成長戦略がきわめて重要である。