化学業界:石化事業の構造改革進めるも信用力の回復には時間《スタンダード&プアーズの業界展望》
アナリスト 本名 淑恵
主席アナリスト 吉村 真木子
国内の大手総合化学企業4社、三菱ケミカルホールディングス〈三菱ケミカルHD、格付けなし〉、住友化学〈格付けなし〉、三井化学〈格付けなし〉、旭化成〈A/安定的/—〉の2009年3月期末の財務基盤は大きく悪化した。景気悪化に伴い、石油化学分野での需要の減退による収益力の急速な低下に加え、原料価格の上半期での急騰、下半期の急落による石化製品価格への転嫁の遅れや在庫評価損が影響したためである。
汎用品石化製品の需要は回復に転じているものの、今後競争が激化する見込みで、将来的に供給過剰状態がさらに深刻化する可能性が大きい。各企業は石油化学事業への依存から脱却するために、事業ポートフォリオの再構築に注力しているものの、非石化事業の強化にはまだ時間がかかるとみられることから、2006~2007年度のような財務水準への回復は短期的には難しいとスタンダード&プアーズでは考えている。
エチレンセンターの再編が信用力に与える影響
日本では、エチレン系製品が毎年約700万トン生産され、そのうち約30%が中国を中心とするアジアなどに輸出されている。中国での需要の伸びに牽引され、国内のエチレンプラントの稼働率は2007年に90~100%台と高い水準で推移していた。しかし、2008年後半からの急速な景気悪化により中国の需要が停滞したほか、日本の内需も不振だったため、稼働率は、2009年1~3月には採算ラインといわれる90%を大きく割り込み、70%台と大きく落ち込んだ。今年の8月には、景気刺激策によって回復した中国の需要に支えられて、稼働率は再び90%台にまで回復しているものの、今後の見通しは厳しいとスタンダード&プアーズは考えている。
その理由は中国市場での競争の激化にある。中国での需要は今後伸びると見込まれる一方で、2009年以降、中東で圧倒的なコスト競争力を持つ天然ガス(エタンガス)を原料とする新設備が稼働し、中国向け犯用品が増加すると見込まれるうえ、中国国内でも大型・最新鋭のプラントが新たに稼働する。そのため、日本国内で生産されている石油化学製品はコスト競争力を失い、まず中国市場向けの輸出品が締め出され、日本の国内市場でもより安価な輸入汎用品が増えていく可能性がある、とスタンダード&プアーズはみている。