映画「蜜蜂と遠雷」はここまで音響にこだわった ピアノコンクール描く作品に技術の粋集める

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通常の映画の場合、マイクをバランスよく配置して録音し、その音をバランスよくミックスダウンするという作業工程になるが、本作の場合、マイクを多めに用意して、楽器ごとに個別の音を録ったという。録音スタッフも、映画畑の録音スタッフのほかに、クラシック音楽の録音を専門とするスタッフも参加。混合部隊で収録は行われた。

「デリケートな録音設計が求められました」と語る石川慶監督 (筆者撮影)

「この映画ではピアノの音、弦楽器の音など、楽器ごとに音を個別に録っておいて、後でバランスを変えられるようにしました。というのも、映画の中ではカメラが動くのに、鳴っている音楽は、バランスのとれた音だけを聴くことになるのはやはりおかしいんじゃないかという話になったからです。

そういう意味で、音楽はそこで録音はしていますけど、やはり限りなく映画の中で使うことを念頭に録音しました。例えば『風間塵(鈴鹿央士)のピアノの音が響く』というシーンがあれば、そのピアノの音を立てないといけません。しかし全部の音をミックスダウンしてしまうと、ピアノの音を上げたくても、ほかの音も全部上がってしまう」(石川監督)

それゆえに、画面に映っている楽器の音がしっかりと聞こえてくる。臨場感や没入感も格別なものになっている。

特等席でコンクールを観ているような映画に

それだけではない、日本映画では珍しいドルビーサラウンド7.1chで収録されている。こちらも通常の映画作品は5.1chという、5つのステレオスピーカーと1つ中低音を強調するスピーカー(サブウーファー)で構成されているが、7.1chは、ステレオスピーカーが7つとなる。それによって、音の立体感を際立たせることができる。

メインキャストとなる4人のピアニストは、松岡茉優、松坂桃李(写真)、森崎ウィン、鈴鹿央士といったユニークなメンバーがそろった ©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

「やはり普通にクラシックのコンサートを聞きに行くのとはまた違う音圧を感じられると思います。場合によってはライブに近い音圧で聞けるんじゃないかと。例えばカメラ位置的に、ピアノが前にいて、後ろにバイオリンがいるようなときは、そういう位置関係に合わせた音響設定が必要になりますし、そういう意味でデリケートな録音設計が求められました。今回の映画でそれができたのはすごくよかったなと思いますし、クラシックファンの方が、この映画の音響をどう聞くのかは、実はちょっと楽しみではあります」(石川監督)

本作のメインキャストとなる4人のピアニストには、松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士というユニークなメンバーがそろった。白熱のピアノコンクールを彩るさまざまな楽曲を実際に奏でるピアニストにも、河村尚子、福間洸太朗、金子三勇士、藤田真央という世界で活躍する日本最高峰のピアニストたちが集結。劇中のそれぞれの登場人物に沿った演奏を披露している。

本作の石黒裕亮プロデューサーは「特等席でコンクールを観ているような映画にしたい」と語っていたが、まさにそういう音響を体感できる作品となった。とくに近年は、ドルビーサラウンド7.1chに対応した映画館など、音響にこだわりを見せるプレミアムシアターが人気を集めている。音響技術の粋を集めた作品だけに、そうした映画館で鑑賞してみるのもいいかもしれない。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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