ハンセン病隔離政策で苦しんだ「孤島・長島」の今 「人権の島」を生きた人々の数奇な人生

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「地元の人間である僕ですら、うっすらとしかこの町の歴史を知らなかったんです。なぜこれだけ多くの誤解を生まれ、残ってきたのか。学芸員の仕事に就き、多くの入園者の方と話す機会を得て感じたのは、ご苦労をされたのにそういう部分を極力出さないということ。皆さん優しく、自分の言葉で私にかつての経験を伝えていただきました。

こういった経験を未来へと伝える語り部の1人として、何ができるのか。またより若い世代の語り部となる方を探すために、何をすべきなのかというのが私のテーマとなりました」

愛生歴史館で話を聞いた学芸員の田村氏(筆者撮影)

現在、愛生園への入居者の数は男性82人、女性67人の計149人だ(2019年8月6日時点)。平均年齢は86.19歳。1945年の2021人をピークに、平成に入り1000人を切り、年々その数字は減少している。

高齢化と入居者の減少は、南は沖縄から北は青森県まで全国13ある国立療養所にも同じことがいえる。入居者たちは高齢化し、もはやかつての経験を言葉にする機会が減り、語り部を作る機会は限定的でもある。そんな中、新たなプロジェクトが進行しているという。田村氏が続ける。

「私の立場から言えば、もっとも難しいことは『どのように後世に伝えていくのか』ということ。今の時代、読み物として読んでもなかなか多くの人に届かない。最も理解してもらえるのは直接見たり、聞いたりすること。そのきっかけを創出をすることが私たちの役目だと思うんです。

今、岡山・香川両県にある療養所3園の世界遺産登録を進める運動が進んでいます。世界遺産登録されることで、観光客の方が訪れ、多くの人にこの島の歴史を体感してほしい。私たちにとって、世界遺産は手段であって、目的ではないんです。無関心から、関心への1歩となることを願って活動しています」

受け継がれる歴史

かつて新良田教室があった邑久高校では、その歴史を絶やさないための試みが実施されている。同高では総合学習の時間で展開している地域学の授業において、ハンセン病を包括的に学ぶ取り組みを2017年から開始した。授業を担当するのは田辺大蔵さん(60)だ。

現在では、同高の認知活動にも繋がっているが、その船出は厳しいものだったという。

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