「駄目なマニュアル」が組織にのさばる深刻度

世の中、役に立たないマニュアルが多い

責任回避手段としてのマニュアル

事故が起きても「マニュアルに指示されている手順とは異なる作業をした人が悪い」という言い訳や、「マニュアルには警告が書いてあった」という法的な逃げ道を作るために、マニュアルが作られることがある。

警告は製品の危険性を指摘するものであり、読者には見せたくないためか、やたらと小さい活字で、しかも薄い灰色で印刷している企業もある。

最近は、世界的な消費者保護の運動を受けて、これらの言い訳は法的には認められにくくなった。製品事故の裁判で言い訳を無理に押し通そうとしたため、巨額の制裁的賠償金を課されて破綻した企業もある。

ひとたび不祥事が1つ起こると、「再発防止策を講じろ」と上層部や監督官庁や外部有識者委員会などから命じられるものだ。この命令に対して、安直に「再発防止マニュアルを作りました」と答える場合が多い。そのマニュアルを実行して本当によいのかは二の次で、取り繕いのためだけの「逃げ」のマニュアルが増えていく。

手間を増やしてはならない

これは大学に関わる人なら誰でも知っている話だが、ある大学では、教職員がカラ出張をすることを阻止するために、厳しい対策を打ち出した。学会参加などで出張に行った場合は、「確かにこの人は何時から何時まで学会に出席していました」という証明書を第三者に書いてもらい、サインしてもらうべしというお触れを出したのである。

その結果、いろいろな学会会場で、見知らぬ人から「この書類にサインしてくれ」と頼まれるという珍風景が繰り広げられた。カラ出張は防げても、みっともなくて大学の評判に傷が付いてしまう。

泥棒が出るたびに、刑法条文を増やすような風潮が社会にはある。「再発防止策を講じろ」と命じる立場の方々には、ぜひ「しかし手間を増やしてはならない」という一言を添えるようにしていただきたい。

私はある自治体から、事務ミス対策委員会の委員長を頼まれたことがある。そこでは事務ミスが起こるたびに、その大小を問わず、ミスの概要報告と対策案とを書類にして提出するルールがあった。

これはあまりに煩瑣であるし、効果もない。職員にアンケートで尋ねてみても、「あれはやめてほしい」という意見が多数を占めた。委員長の立場から強く意見して、早々に廃止させた。廃止したところでミスは増えず、職員からは「時間の余裕が増えた」と感謝された。

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