忍術道場の「武神館」が外国人を惹きつける理由 日本人が知らない「ふるさと」の魅力と聖地

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日曜日の午前11時前、道場に着くと、すでに武神館の黒い道着を身に着けた門下生たちがウォームアップをしたり、談笑しながら稽古の開始を待っている。総勢50人ほど。外国人が約8割で女性の姿もチラホラ。みんな道場に足を踏み入れる前に一礼していく。

11時半、初見師が登場。道場はそれまでの和やかなムードから一気に凛とした雰囲気となる。初見師を先頭に、一同が正座して高松師の写真が飾られた神棚に向かって一礼してから稽古が始まった。

「さあ、やろう。OK」

武神館の稽古の様子。黄色のトレーナーの方が初見良昭氏(筆者撮影)

初見師の声が響き渡る。まずは初見師が門下生相手に模範演技を示す。その後、弟子、門下生が2人一組となって、初見師の動きを練習する。FBIの文字がプリントされた黄色のトレーナー姿の初見師の動きは、まさに流れるよう。無駄がない。

攻撃してくる相手の腕を受け止め、軽妙な動きで畳の上に倒してしまう。長棒を使った稽古では、突いてくる棒の根元に近いところに自らの長棒を当てて、あっというまに振り払い、相手を倒して上からとどめを刺す。とても87歳とは思えない動きである。

指導が始まると…

 門下生同士の稽古を指導する際は、よく通る声でポイントを解説する。

「流れを大事に、空間を大事に」

「技を使うと死んでしまうよ。技を消すことが大事」

「構えがダメ。根っこが大事だよ」

「あると思えばない、ないと思えばある。コントロールを勉強して」 

門外漢の取材者には、理解できる部分もあれば、禅問答みたいな部分も。初見師の言葉を高段の弟子が逐一英訳していく。道場には「世界忍者戦ジライヤ」(テレビ朝日系列で1988年から1989年にかけて放映された特撮テレビドラマ)の主人公役を務めた筒井巧さんの姿もあった。このドラマで、初見師は主人公の義父で戸隠流第34代宗家という役で出演している。

筒井さんに忍者論を聞いたところ「忍者は殺されてはダメなんです。相手の攻撃をかわし、コントロールすることが大事。どんな状況でも情報を持ち帰るのが役目ですから」との答えが返ってきた。

FBIや世界の警察関係者、警護関係者に武神館の門下生が多い理由の1つがここにあるのだろう。テロリストらから要人を守ることが最優先される仕事において、実戦で自らが殺されては元も子もない。いかに相手の攻撃をかわして身を守り、使命を果たすか。

「技を消すこと」と指導していた初見師は、殴る、蹴るといった攻撃を一切しない。相手に軽く触れるだけ、ときには指先を取るだけで攻撃を封じ込め、転がしてしまう。

「自分の意識を残さない、エネルギーを消す」──。力に頼らない境地とでもいうのだろうか。力に依存し、それを誇示しがちな多くの武道家と決定的に異なる点である。

自分が傷つかず、相手にコントロールされない初見師の動きは、女性にとっては最強の護身術となる。一部の患者の暴力から身を守るため、女性の医療関係者も学んでいるという。

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