「自分は発達障害じゃない」と言い切れますか うつ病として治療されるケースが実際にある

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「発達障害は増えているのですか」と、聞かれることがあります。この点について明確なデータはありませんが、増えているのではなく、これまで周囲から認識されていなかった「発達障害」が次第に認識されるようになってきたというのが正しいように思います。

このような変化は、日本の学校や企業社会の変質と密接に関連していると考えられます。元来、日本社会は人と人との関係が稠密(ちゅうみつ)で、他人の「目」を気にする程度が大きいことが指摘されていました。

この日本の社会環境は、一般の人からは幾分ずれた特性をもっている発達障害の人には、そもそも必ずしも心地よいものとはいえませんでした。しかし、一方で日本社会は建前と本音を使い分ける傾向が強く、定型的なことがうまくできない発達障害の人たちも、集団の中では問題にされずスルーされることが多かったように思います。

ところが近年、社会のグローバル化に伴いコンプライアンスを重視し、何事にも透明性が求められる堅苦しい「管理社会」が出現しつつあります。

こうした社会状況においては、物事に柔軟に対処できないASD(自閉症スペクトラム障害)の人や、些細なミスを頻繁に起こしやすいADHD(注意欠如多動性障害)の人は、どうしても不適応を起こしやすくなり、会社や学校で目立ってしまったり、困った存在として認識されやすくなったりしているのです。

発達障害なのに「うつ病」として治療されていた症例

ここでは、うつ病として治療を受けていた成人期の発達障害の女性について紹介したいと思います。

彼女は、大学3年生でした。大学のスクールカウンセラーからの、「うつ病が続いている」「いくつかの心療内科にかかってうつ病の治療をしているがよくならず、大学に来なくなってしまった」という紹介状を持って病院を受診しました。

話を聞くと、大学に入った頃から友達関係がうまくいかなくなり孤立し、さらに先輩の早期引退とともに2年生で大学のバレーボール部の部長になったのですが、うまくみんなをまとめられなかったことに加えて、大学側に活動報告を提出しなかったため、部は廃部になってしまいました。

さらに交際相手ともうまくいかなくなったり、授業にも集中できなかったりしたため、気分が落ち込み、「死にたくなった」「何をしていても涙が止まらない」「眠れない」「気分が落ち込む」「何もやる気が出ない」といった状態になったのです。

このため、彼女は近くの心療内科や精神科に3軒ほど通いましたが、状態は一向によくならず、大学にも行けなくなってしまいました。

診察室では涙を流しながらつらいと繰り返し、何度も椅子に座り直したり、持っているバッグの紐を繰り返し触ったりして落ち着かない様子でした。いろいろな抗うつ薬を飲んで、一時は症状が改善したようですが、交際相手との諍(いさか)いや大学での孤立は続いており、しばらくしてまたすぐに元の状態に戻ってしまったのです。

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