市町村の役所の方から見れば中央省庁は遠い役所です。普通、自治体だけで解決できない問題があれば、まず、都道府県に相談します。国に陳情するのはその後です。地方の自治体の人からすれば、都道府県の役人は悪人、国の官僚は極悪人に見えているわけではないと思いますが、親しく付き合い一緒に仕事をするにはハードルが高い存在です。
その中央官庁、しかも財務省から派遣されてきたわけですから、最初は警戒されたと思います。けれど、嶋田さんが本当に被災地のことを考えて、財務省ではなく、市や市民のほうを見て働いている姿が伝わって、市長や役場の職員に請われて副市長に就任することになったんです。
さて、ここからが政策の話です。彼の姿を見ていて、「こんなに感謝されるのなら、若手官僚の派遣を被災地の自治体に限定する必要はないじゃないか」と思いました。全国1700ほどの自治体で、人材を求めている役所はたくさんあるはずです。
一方、困っている自治体に派遣されて、意欲を持って働いてみたいと考える国家公務員や民間の方も大勢います。しかし、そういう意欲を持った人を派遣する仕組みがありませんでした。
「なんとかできないかな」と私が相談したのが藤沢さんでした。彼は、アメリカのシティ・マネジャー制度など諸外国の事例を調べ、日本版シティ・マネジャー制度というようなイメージで、地方の小さな自治体に若手官僚や民間人を派遣する制度の設計に尽力してくださいました。
幸い、私は復興政務官と同時に、石破茂・地方創生担当大臣兼内閣府特命担当大臣の下で地方創生担当政務官も兼務していましたから、この分野はぴったりでした。その思いで、藤沢さんらに制度設計していただいた政策立案を、地方創生という文脈の中で提出しました。
それは、地方創生人材派遣制度という形に結実し、人材不足に悩んでいる人口5万人規模の自治体に有意な人材を派遣することができるようになりました。この取り組みは、今も続いています。
これは、民間の政策起業家と政治家がつながって、政策が実現した好例だと思います。民間の立場であっても、現実の政策を動かしていくことは、十分可能だということです。
官僚の熱意が政治家を動かす
次に官僚と政治家が、本来の意味で意見を闘わせ、よりよい政策を生み出した事例です。復興支援の取り組みの1つに、原発事故の後に、郡内の5つの県立高校の再建のメドが立っていなかった双葉郡に中高一貫校を作るという話がありました。