ハイテク映画祭・シネクエスト、世界中からオンラインで映像が集合

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 シリコンバレーのサンノゼ市で、デジタル映画祭シネクエストが、2月25日から3月8日まで開催されている。今年で19回目のシネクエストは独立系(インディ)の映画祭で、世界中の映画祭のトップ10に入るといわれる。世界から約150本以上の出品と8万人の観客が予想され、日本からはカンヌ映画祭で「ある視点」部門審査員受賞の黒澤清監督の『トウキョウソナタ』が出品されている。

ハイテク中心地・サンノゼで毎年開催されるシネクエストだから、映画祭にはデジタル技術が至るところで使用されている。パナソニック、インテル、HPなどが後援する同映画祭には、映像をインターネット経由のオンデマンド配信、DVDのダウンロード、自宅のパソコンで映画が見られるストリーミングが駆使されている。

こうしたテクノロジーはもちろん作品の出品にも活用され、世界のどこからでも自作のデジタル映画をアップロードしてシネクエストに出品できるようになっている。実際にwww.cinequest.orgのサイトにアクセスしてみると、名前とメールアドレスを入力、シネクエストからのリンクに従って、参加費をクレジットカードで支払うだけという、超簡単なエントリー方法となっている。ちなみに今回の映画祭への参加は既に昨年の11月10日に締め切られている。

このお手軽なオンライン出品技術のためか、毎年映画祭には米国内からでなくフランス、中国、イラン、インド、スウェーデン、ドイツ、イスラエル、トルコ、ベトナム、パキスタン他から、多く出ている。

開催初日の25日夜、オープニング会場のカリフォルニア・シアターの前には地元のテレビやラジオのクルー、女優、男優、映画監督、プロデューサー、映画鑑賞者、パパラッチなどで、赤いカーペットは多くの人々でごった返していた。

トム・マッケナリー元サンノゼ市長が始めたシネクエストはかつて、斬新な若いプロデューサーや脚本家の作品が多かった。が、列に並んでいたサンノゼ在住の女性教師は「年を重ねるごとに派手になって来たわ」という。

不況で暗い報道の続く中、アメリカの映画産業は比較的堅調で、シネクエスト参加者は2005年には約5万人だったが、既に記述したように今年は8万人と増える見込み。シネクエスト映画祭を見るため、実際にサンノゼの映画館に足を運ぶ人だけでなく、開催期間中に映画をダウンロードする件数も7万件以上と、主催者側はコメントしている。

シネクエストスポンサーのHPは、人混みを利用し、販促活動に励んでいた。赤いヒールを履いた真紅のドレス姿の女性陣をシアター会場前に配し、同じくファッショナブルで赤いラップトップのヴィヴィエンヌというパソコンを売り込む。サンノゼに本社を構えるアドビ、アプライド・マテリアル、コムキャストといった大手IT企業だけでなく、電気小売販売のフライズ、サービスレビューサイトのヤルプ(yelp)、旅行サイトのトラベロッシティ、ドルビーなどもシネクエスト協賛といったところが、シリコンバレーのお土地柄であろうか。

シネクエストのキャサリーン・パウエル氏は世界で毎年多くの独立系の映画が出ているものの、「全米の映画館で上映されるのは、そのうちのわずか1%」という。インターネットは、ユーザーのパソコンやテレビ、ホーム・シアターにこうした映画を直接配信する足場を提供している。ハリウッドの蚊帳の外にある世界の映画制作者、配給者や独立系の映画製作者たちにとって、ネットは新たな収入の糧を生み出す道に繋がる。

「資金も時間もかかり、リスクの多い」映像ビジネス。しかし、インターネットというインフラと、低コストで制作可能なデジタル技術が台頭し、リスクは低下、マーケットは拡大する可能性が高まっている。シネクエストの盛況は、そんな時代を象徴するものといえそうだ。
(Ayako Jacobsson =東洋経済オンライン)

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