29歳ママさん陸上選手の諦めない五輪への夢 日本記録ハードラー寺田明日香は世界陸上へ

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これまでの選手生活を振り返った寺田明日香(筆者撮影)

引退後はスポーツコンサルティング会社代表の佐藤峻一氏と結婚、2014年4月に早稲田大学人間科学部にも入学し、大学生活と平行して仕事もした。同年8月には子どもが産まれ、子育てに忙しくなったが大学は辞めなかった。

「文字を書く、レポートを書く、締め切りに追われる、という生活をしてこなかったので、そういう経験を自分もしたほうがいいと思ったんです。ほかの仕事に就く場合もいろいろなプレッシャーを感じながらやる仕事も多いと思うし、大変な経験をしておかないとこの先に苦労すると思いました。自分で苦しんで、自力で乗り越える力をつけたかったんです」

ママさんアスリートとして現役復帰したのは2016年夏のことだった。7人制ラグビーにチャレンジし、育児・大学・仕事・練習と4足のわらじを履いた。

「高校卒業後の2年間は所属先でもあった専門学校でパソコン関係のことを学んだんです。大学でも継続して、プログラミングなどを学びました。研究室は子供福祉で、子どもの発達などを学び教養がつきました」

大学に通いながらスポーツマネジメントの会社でも働いた。専門学校で簿記もとっていた経理の手伝いや選手のスケジュール管理の仕事にも取り組んだ。現在のパソナグループでは様々な部署の会議に出て、仕事の流れをつかむことからはじめた。得意のPCを使った作業や人生初となる営業同行も体験した。

「一般企業のお客さんや派遣スタッフさんに対して、営業がどのようにコミュニケーションをとっているのかを間近で見られたのは大きい経験でした。話し方や相手との距離感を学んだんです。近い距離感のほうが話しやすい雰囲気になると学び、それがファンの方との交流にも活きました」

日本には寺田のようなママさんアスリートが少ない。寺田が把握しているママさんアスリートは片手にも満たない人数という。

「前例が少ないことが大きいですね。自分が取り組んでいる種目で成功している人がいないと不安じゃないですか。誰もやったことがないと、チャレンジする選手がそもそも少ない。チャレンジしたけれど戻ってこられなかった方が何人もいると思います」

アスリートとの両立、周囲の理解も重要だった

子どもを保育園などに預ける必要もある。

「預かってもらえる環境が少ないんです。自分の親御さんに頼っていたり、正社員として働いている場合は、地域の認可保育園に申請して通る場合が多いですが、スポンサー契約や業務委託契約などを結んでいると(正社員のような)社会的保障がありません。

フルタイム勤務ではないと基本的には無理なんです。無認可保育園に預ける選択肢もありますが、とても費用がかかるんですよ。自分の活動だけでもお金がかかるのに保育園にもお金がかかるとなると、心が折れてしまう。私も当初はかなり困っていましたが、幸いなことに現在の所属先であるパソナグループで、社内保育園に預けられたので助かりました」

自身の親や家族の協力、夫、夫の親の理解もないとなかなか難しいのだ。もうひとつの理由はアスリートとしての話だ。

「妊娠中のトレーニング、妊娠直前のトレーニング、出産後のトレーニング、復帰するまでの過程、プロトコル(手順)のようなものが日本にはないんです。海外では何年も前からママさんアスリートがいるので、プロトコルやトレーニング方法があると思いますが、日本には明確にはなく、そこにわざわざチャレンジするかというと一歩引いてしまう部分があるんです」

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