29歳ママさん陸上選手の諦めない五輪への夢 日本記録ハードラー寺田明日香は世界陸上へ
「今回のレースはハードルが低く見えました」
1レーンから8レーンまで合計80台も並ぶ威圧的なハードルが低く見えた。10台のハードルを飛び終え、100mを走りきると電光掲示板に12秒97の文字が浮かんだ。
これまで日本人が破れなかった13秒の壁を寺田明日香(パソナグループ)が破った。2019年9月1日、29歳のママさんアスリートが女子100mハードルの日本記録保持者となった。27日に開幕する世界陸上ドーハ(カタール)の代表にも選出され注目が集まっている。
筆者が寺田と初めて会ったのは約2年前、2017年6月の大学病院でのことだった。
「ラグビーで足首を折ってしまったんです!」
置かれている状況とは正反対に明るい笑顔を見せた。
高校卒業後の2008年、18歳のときに日本陸上競技選手権100mハードルで優勝、以降3連覇を果たした。2009年には世界陸上ベルリン大会に出場している。暗雲が立ち込めはじめたのは、その後に開催されたアジア大会(2010年)。ランキングではトップだったにもかかわらず、決勝では最後のハードリングに失敗し5位入賞だった。はじめて調子がいいのに結果が出ずに落ち込んだ。
女性としての体の変化にも悩まされた
挽回しようと気合を入れて臨んだ翌春の合宿で、右足を剥離骨折。
「ずっと捻挫だと思っていました。2011年シーズンの話です。頑張ろうと思っていた矢先のケガでした。ケガをして、走り方がわからなくなったんです。負傷した右足はハードルの踏切の足でしたので、どうやって踏み切っていたのかがわからなくて、体調も悪くなりました。さらに精神的なこともあって、月経不順になったり、空気を吸うだけで太るような女性ならではの体の変化の時期が、高校時代ではなく、20歳を超えたこの時期にやってきました」
いつもと変わらない生活をしてるのに、会うたびにいろいろな人から「太った?」と言われるようになり、監督からも「食べすぎなんじゃないか?」と言われ、摂食障害のような症状にも陥ったという。
症状は改善されず、2012年ロンドン五輪出場を目の前にして逃し、落ち込んだ。そこから世界陸上に向けて奮起したものの、負のスパイラルから抜け出すことができず、2013年6月の日本選手権を終え、そのまま現役を引退した。23歳のときであった。
「足が遅くなっているのに注目されるのはつらかったです。やめる際は陸上トラックを見たくないほど精神的にも落ち込んでいました。切り替えて大学へ行こうと思いました。子どもも欲しいし、働きたいし、陸上とまったく関係ない新しい生活を送ろうと決めたんです」
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