29歳ママさん陸上選手の諦めない五輪への夢 日本記録ハードラー寺田明日香は世界陸上へ

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それでも自分が後悔しない道を歩みたいと思った。

寺田と接していて唯一わからないことがあった。なぜ年齢を重ねたのに足が速くなったのか、という点だ。

「ラグビーで骨折した際に、いろいろな体の癖の修正や細かい部分のリハビリをしました。陸上の場合は、まっすぐしか走らないですし、どうすれば前に速く走れるかしか考えていないんです。ラグビーでは、しゃがんだり転んだり、急に止まる・急に走り出すなどの陸上にはない動きをたくさんやりました。ラグビーを通じて筋肉の使い方を自分でコントロールできるようになったんです」

そうは言うものの30代間近の女性で、ベストタイムを更新するケースはかなりレアケースで、世界的にもほとんどないとのことだ。

「若い頃にもっと速く走れたのでは?」と筆者は尋ねたが、「あの考え方だと行き詰まってたと思います。当時はコミュニケーションの取り方がすごく下手でもっと頑固でした」という返答であった。

いろんな経験をしたことで、聞く耳を持って柔軟な考え方ができるようになったのだろう。自分の世界しか見ていなかったところから、周りがいろいろと見えるようになり、視界が開けたことも速くなった理由のひとつだろう。

娘は5歳になり、ママが何をやっているのかわかるようになってきた。「頑張る過程が大事」ということを伝えるべく、時々練習場にも連れていき、母の背中を見せている。

「旦那は、今はマネジャーもしてくれています。けんかもするし、うるさいんですけれど日本新記録を出していちばん喜んでいたのは旦那でした。スポーツに関して理解がある人でよかったなと思っています。家事・育児も分担していて、ゴミ捨てや娘の保育園や習い事の送迎などの大変な所は、ほとんど旦那です(笑)」

ママが東京オリンピックで走る姿を見せたい

夫と娘と共に歩んできた。7人制ラグビーでは1~2週間にわたる合宿がよくあり、当時2歳の娘と別れる出発時には涙を流した。

寺田 明日香(てらだ・あすか)/1990年北海道生まれ。小学校4年生から陸上競技を始め、本格的にハードルを始めたのは高校1年。2013年に現役引退。結婚・出産を経て7人制ラグビーで現役復帰、2018年12月から陸上競技へ復帰。100mハードル日本記録保持者(写真:筆者提供)

娘が産まれたときに持っていた夢は「家族3人で東京オリンピックを見に行こう!」。それが、「ママが東京オリンピックで走る姿を娘に見せたい」に変わった。

9月の富士北麗ワールドトライアルで日本記録を更新した寺田は世界陸上2019ドーハの代表に選ばれた。世界陸上は10年ぶり2度目の出場となる。

「世界陸上では、私より速い選手ばかりなので、どういう動きをして速さに結びついているのかを一緒に走って感じたい。そこで私の現時点での力がわかると思います」

9月27日に開幕する世界陸上で、寺田が出場する100mハードルは大会9日目の10月5日に予選、6日に準決勝と決勝が行われる。

不可能を可能にしてきたママさんアスリートが次はどんなサプライズを披露してくれるのか、2020年東京オリンピックを目指す寺田から目が離せない。

(文中敬称略)

菊池 康平 スポーツライター

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きくち こうへい / Kohei Kikuchi

プロサッカー選手を目指して学生時代と会社員時代の夏期休暇などを利用し12カ国に挑戦。会社を1年休んで挑んだ13カ国目のボリビアでプロ契約を果たす。飛び込みで現地のチームと交渉し、テストを受ける道場破りスタイルを得意とする。現在は16カ国でサッカーに挑戦した経験を夢先生などの活動を通して子どもたちに伝えている。アスリートへの就労支援、KING GEARなどでライター活動、専門学校の講師などにも従事。

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