29歳ママさん陸上選手の諦めない五輪への夢 日本記録ハードラー寺田明日香は世界陸上へ

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出産を機に運動能力はどのくらい落ちるのだろうか。

「出産した半年後に走りましたが、一般の方より足が遅く、旦那が驚いていました。衝撃の遅さでした。出産前に出していた成績や、身体の使い方や感覚をすべて捨てられるか、その現実を認められるかがポイントだと思います。ここから作り直すんだ、前よりも進化できるようにいろいろやるんだ、という覚悟がないと厳しいです」

実際に2016年に7人制ラグビーでアスリートに戻ったときの肉体的な苦労は大きかった。

9月15日にパソナの社員の子ども向けに開催された「かけっこ教室」での様子(写真:筆者提供)

「出産後の2年間はピラティスにたまに行くくらいで、ほとんどトレーニングはしていませんでした。子育てと大学の卒論もあって忙しい時期にラグビーを始めましたが、ジョギングするのもつらいし、転んだり、起き上がったりするので、アップの練習だけで呼吸困難になりそうなくらい息切れしていました」

これはまずいと思い、ウエイトトレーニングを含め本格的なトレーニングを始めたという。体重も増やさないといけなかったので、食事と筋力トレーニングに励み、47Kgだった体重を、1カ月で約8kg増やした。なぜそこまでして、7人制ラグビーにチャレンジしようと思ったのか。

「足の速さを買われて誘われました。オリンピックに陸上で出れなかったので、チャンスがあるならチャレンジしたいと思ったんです」

ルールもわからないままスタートした。2016年12月に日本代表トライアウトに合格し、翌年1月からは日本代表練習生として活動してきた。

「ルールブックを買って暇さえあれば読んだり、映像を見てイメージしていました。日本代表の練習生として入っているので、日本代表のみんなと同じメニューをしてたんです。ときどき自分に足りないところやタックルの仕方を個別に教えてもらっていました」

しかし、2018年12月にそのラグビーを断念し、6年ぶりに陸上の世界に戻る決断をしたという。

真剣に悩み、下した決断

「チームで試合に出ていても圧倒的な活躍ができるわけでもなかったですし、日本代表候補の合宿に呼ばれた時も足の速さでは勝てましたが、圧倒的に光る技術はないと感じました。骨折で離脱していた約半年間にボールに触れず、チーム戦術を身体で感じられなかったのはかなり大きかったんです。オリンピックまでの時間を考えても最終的にメンバーに残ることが難しいと感じました」

ラグビーを真剣にやったからこそ、東京オリンピックに間に合わないとわかったのだ。ラグビーを経験したことで新たな発見もあった。

「ラグビーをやったことにより、すごく気持ちよく走れる感覚が出てきました。試しに陸上トラックを走ったときに、すごく跳ねる感じがあって、平坦なトラックなんですが、坂道をくだっているときのように勝手に進んでいく気持ちよさがあったんです」

もちろんアスリートを引退する選択肢もあった。この先の人生で自分がやりたいと思ったことをやらないで後悔しないのか、自問自答を繰り返していたと話す。

「周囲からいろいろと言われたり、たたかれたりすることは承知のうえでの決断でした。『ラグビーを中途半端な気持ちでやるなよ!』と言われたり、『陸上なめんな!』と言われることもわかっていました」

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