慶應商学部卒で学習塾に就職した男性の悲哀 卒業したときは30歳、商社は「全滅」だった

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政府は6月、35~44歳の非正規雇用労働者を対象にした就労支援計画を設けた「骨太の方針」を閣議決定した。長年にわたって、非正規労働者の増大や、労働関連法の規制緩和による弊害について書き続けてきた私からしたら、言葉は悪いが、「はぁ? 今さらかよ」という感想が先に立ってしまう。

政府はこの世代を対象に、30万人の正社員登用を目指すとしている。正社員化は大切な課題だが、一方で、より深刻な問題は、ユウジさんがさんざん経験してきたように、雇用形態に関係なく、何年働いてもワーキングプア状態から抜け出せず、さらには多くの職場で違法行為がまかり通っていることだ。もっといえば、これは世代を超えた問題でもある。

“慶大卒”の肩書を原動力に

政府がもし、現在の就労環境を本気で何とかしたいと考えるなら、働き手が労働関連法について学ぶ機会をつくることだ。労働組合のつくり方から、団結権、団体交渉権の意味までみっちりと教えるといい。これらはタブーでも、なんでもない。憲法以下、さまざまな法律で保障されていることだ。まあ、業界・経済団体は反対するだろうけど。

「自己責任と言われたら、そうかなと思うこともあります。でも、すべてがそうだと言われると、ちょっと納得できません。実際に不況のせいで、採用される“枠”は減ったわけですし」

そのように話すユウジさんは、学歴にこだわるあまり、大学卒業までに時間がかかったことを、長年後悔してきたという。しかし、最近は、自分の意思で努力して、手に入れた成果なのだから、誇りに思うようにしているという。だから――、とユウジさんは続けた。

「『慶應義塾大学商学部卒業』ということは、できれば実名で書いてもらえますか」

ユウジさんにとって、“慶大卒”は単なる学歴や過去の栄光ではなく、自分を肯定し、前へ進むための原動力なのかもしれない。ユウジさんは、先日、社会保険労務士の資格を取るための試験を受けた。合格発表は今年11月である。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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