不都合だらけ「強制転勤」はこうして撲滅できる どんどん声を上げていくしかない

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中野:納得できないことがあったら会社を辞める。しかもSNSで発信されて、誰も文句が言えないというパターンが今回出てきた。企業側も強制転勤を続けていると、優秀な人材が辞めていなくなる可能性がある。カネカはいい事例でしたね。

志水静香(しみずしずか)/株式会社Funleash CEO兼代表取締役。元ランスタッド取締役・最高人材開発責任者(CPO)。大学卒業後、日系IT企業に入社。外資系IT・自動車メーカーなどを経て1999年ギャップジャパンに転職し、人事本部長として人事制度基盤を確立。2013年、法政大学大学院政策創造研究科修士課程修了。2017年ランスタッド入社、人材開発最高責任者兼取締役を務める。2018年、株式会社Funleash設立。組織の枠を超えて積んだ経験が個人の能力を引き出すと考え、「越境学習」の観点から大学やNPO、ベンチャー企業などの機関で組織開発・人材育成のアドバイザーとして活動している。翻訳にデイブ・ウルリッチ『人事コンピテンシー』など。著書に『キャリア・マネジメントの未来図』(二神枝保、村木厚子らと共著)(撮影:今井康一)

志水静香:私は長らく人事の仕事をしていますが、人事部をもっと頼っていいと思います。残念ながら人事の人たちは普段、社員の方々と直接話す機会が少ないんです。人事のほうから全社員に接触するにも限界があるので、何か問題があれば、社員の皆さんが懸念事項を発信して、人事とやり取りを行うといいと思います。

皆が皆、青野さんのような理解のある経営者ではないと思いますが、「社員が財産」と考える経営者もたくさんいます。だから経営者たちに、「強制転勤がいかに社員にとって不都合なことなのか」「強制転勤は自分が生き生きと働くために問題がある」と社員が言っていかないと。そういう一人ひとりの社員の動きが、会社、そして社会を動かすと思います。

中野:声を上げる方が出てきたことは、どんな事例であれいいと思います。会社側も古い体質を維持しながらも、代替案を提示するケースなども出てきていますね。

最近取材した女性は海外にお住まいの方でした。旦那さんはその方とは違う会社に勤められていて、夫の海外転勤にあたって帯同したのですが、会社は辞めずに日本からの仕事をリモートで続けています。日本への出張が多く大変そうではありましたが、そういった事例もあります。

大手企業も少しずつ変わり始めています。ある会社では、今まで夫婦を同じ県に配属しなかったそうですが、社内婚の場合は同県配属をする。また配偶者が他社の場合は奥さんの転勤に合わせて、旦那さんが自分の会社に交渉し、奥さんの勤務地と同じ県のグループ会社や関連会社に出向するパターンも出てきています。

でもこういった先進的な事例を企業の方に直接伺うと、外に話を出したがらないんですね。理由は社内で「彼だけ配慮されていてズルい」となるから。

強制転勤を会社からの期待と誤解している層がいる

青野:そういう話こそ、外に対して言ったほうがいいですよね。

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転勤でもう1つ面白い話があって、私はもともと1994年にパナソニックに入社して働いていたんですね。私もかれこれ25年ぐらい働いていますから、同期が管理職になってきていまして。多くの人が、強制転勤を経験しているわけです。

同期会などでたまに集まると、「俺、来月から中国転勤になっちゃってさ」と言う人間がいる。でも顔を見ると、微妙にうれしそうなんです。私たち団塊ジュニアより上の古い世代は、強制転勤と言われると、自分は会社に何か期待されているというような大きな誤解をしていたりする。だから強制転勤がなくならない。

強制転勤自体をうれしがる層が、自分より下の人間も同じように喜んでいるんだろうと錯覚している。いやいや、そんなことはないですよ、と。今は昔と家庭環境も事情も変わってきているのだから、強制転勤の辞令を出すと困る人たちもたくさんいますよと。こういうことは、やはりどんどん表で言っていかないといけないと思いますね。

(次回につづく)

横山 由希路 フリーランスライター・編集者

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よこやま ゆきじ / Yukiji Yokoyama

神奈川県生まれ。東京女子大学現代文化学部卒業。エンタメ系情報誌の編集を経て、フリーに。コラム、インタビュー原稿を中心に活動。ジャンルは、野球、介護、演劇、台湾など多岐にわたる。

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